2020-01-01から1年間の記事一覧

ブルース・スターリング『蝉の女王』(ハヤカワ文庫SF)

蠱惑的なアイデアが蠱惑的に詰まった蠱惑的な小さい本。interdisciplinaryなインスピレーション体(たい)がハチの巣のように充満していて、とすると「評価するための作品」というよりは、未来を発明し直す権利のある者たち――作家や科学者や建築家らが自己のイ…

短篇小説日和

・マイクル・ビショップ「デミル伯の城」(「SF宝石」1979年10月号) ビショップを熱愛し大学の卒論にまで選んでしまった山岸真さんが、とある場所でビショップの短編ベスト3に含めていた作品。そこに「おそらく誰も同意しないであろう」「デミル伯の城」とい…

2019~2020年の収穫

2019~2020年の新刊からではなく、この二年間に読んだ本・マンガからの個人的な収穫。 この種の記事をわざわざ上げるのは本当にひさしぶり。と言っても、学生時代の半分も読めるわけはないわけで、一年ではなくおよそ700日という長さを振り返ってみることに…

こがわみさき『ココログイン』(KADOKAWA)

新作が読めるだけで幸せ!なこがわみさきのひさびさの学園オムニバス。〈魅惑〉という感情を表現させたら右にも左にも出る者はいない天才マンガ家。という確信が本書を読んでさらにほどけなくなりました。宙空に舞う胸の高鳴りのクレシェンドは、もう少しし…

The books I have had special affection for

ふと思い立って作ってみた、自分の好きな本(といってもごく一部だけど)の原タイトルリスト。「英語タイトル」ではなく「原タイトル」なので、いろいろな言語の文字が混ざってきて眺めていると楽しい。 Italo Calvino Se una notte d'inverno un viaggiatore …

--- あなたの裸は海原の島鷗の群れ飛ぶ空の下翼を広げた鷲さながらの手足の なんと美しいこと あなたの額は 湧きあふれる井戸水底には血 水面には蜜汗の噴き出す炎暑の中あなたの身体は ひんやりした泉火照りを癒す飲み物 「島」部分(ヌーラ・ニー・ゴーノル…

--- あなたが そっと触れるだけでわたしは 花になる身体のすべてに化学変化が起こる草の生い茂る牧場となって横たわり日差しの中で 芳しい香を放つあなたの掌が撫でると わたしのハーブとスパイスが みな溢れ出る 葉の一枚一枚がさからいがたく開き熱気の中…

台湾の革製アクセサリー専門店で買ったポーチ。これ、ただのウサギじゃなくて、月餅がモチーフになっているという。

関口涼子+パトリック・オノレ「『坂道のアポロン/Kids on the slope』マンガ共同翻訳のプロセス、可能性とその意義」(石毛弓、柏木隆雄、小林宣之編『日仏マンガの交流 ヒストリー・アダプテーション・クリエーション』思文閣出版、2015)

小玉ユキ『坂道のアポロン』のフランス語への翻訳者で詩人としても知られる関口涼子と、その共訳者であるパトリック・オノレによる、マンガの共同翻訳についての論考。マンガの「共訳」を扱った文章というのは現時点では非常にめずらしく、日本のマンガの普…

読んでいる本『台湾の若者を知りたい』(岩波ジュニア新書、2018年)。 文字通り台湾の教育事情や、10代~20代前半の人々の日常生活を綿密な取材により追いかけた好著。この中で女子高校生の黄さんという人への長めのインタビューが収録されているんですが、そ…

「牯嶺街少年殺人事件」

上映時間約3時間50分、2018年にデジタルリマスター版DVD発売。著名な批評家による言及をまたずとも映画史に刻まれることを運命づけられた、比類なき傑作。柔らかい光を浴びた子ども達がバスケットボールに興じる、ただそれだけの画面が美しすぎて泣いてしま…

新刊で出た時には買っていなかった佐々木敦『ソフトアンドハード』(太田出版)を読む。(守備範囲の広い人なので、どんな作品が取り上げられているか気になって)パラパラめくる程度のつもりで読み出したんだけど、三段組の時評のパートがかなり面白くて初めか…

米川良夫編訳『マリネッティをお少し』(非売品)

イタリア〈未来派〉の詩人・マリネッティの作品をその名の通り「少し」だけ編訳した一冊。〈未来派〉と言っても、たとえばタルホのようなキラキラ感を期待してはいけない。 コトバを円形に配置するとか、タイポグラフィ上の工夫があったりするけど、そのこと…

鳥の声

きょう本を読んでいて、とてもいいなと思った一節。台湾映画を紹介する田村志津枝『台湾発見 映画が描く「未知」の島』(朝日文庫、単行本は1989年)のあとがき。 ――――――――――――――――― 「この本の原稿を書きあげて、三月のはじめごろ、ほぼ一年ぶりに台湾を訪れ…

晴れの日もソファで散歩

・『olive』(マガジンハウス) あの「olive」が1号限定で特別刊行(2020年春)。オトコであるわたしはわずかなうしろめたさを感じつつ、静かな場所でひとりこっそりページを繰りました。小松菜奈、最果タヒ、衿沢世衣子、川島小鳥といった2010年代の極私的ミュ…

思いついて、台湾の知人に、(その人が学んでいた)中学や高校の国語の教科書にどういった文学作品が載っていたかをたずねてみる。なお、その方は90年代以降生まれ。 メッセージで返ってきた回答によると、 ・国語の教科書にのっている作品は古文と現代文学の2…

〈東方幻想〉の作家たち(に向けてのノート)

たったいま仮にタイトルに付した「〈東方幻想〉の作家たち」という言葉を目にして、あなたならどんな作家や具体的作品を思い浮かべるだろうか。たとえばユルスナールの『東方綺譚』やカルヴィーノの『見えない都市』といった作品なら、たしかな数の日本の読…

きれいはきたない きたないはきれい

今月入った池袋のフォー専門店の足元に置いてあったカゴ。店内を思わず見渡して見るとお客さんは自分以外みんなベトナム人で、この注意書きにベトナム語訳が添えられているのに必然性があるように感じられてくる。そう、日本はかくもホスピタリティにあふれ…

昨日の話の続き。この「秋刀魚」18年秋号では、台湾で開かれた「世界最美的教科書展」の会場の様子がたくさんの写真とともに掲載されている。 驚いたのは、大きいテーブルに「デザインの洗練された(と台湾の人が感じてくれている)」日本の教科書が並べられ、…

ふっふー、これ、どこの国の広告でしょう? なんとびっくり、日本ではなく台湾(「秋刀魚」2018年秋号)。この雑誌のコンセプトが「日本文化の発見」であることを差し引いても、小松菜奈と菅田将暉の登場する「nico and…」の一枚がそのまま輸入されているこ…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「Riddle of Poetry」(Norton Lectures)

ある大学の図書館で偶然発見した、ボルヘスの講演CD。敬愛するボルヘスの肉声を、まさかスペイン語ではなく自分が勉強している英語で聞くことになろうとは!ある詩人について、「Worth rereading」などと語ってくれるのがうれしい。 ボルヘスの英語だって「…

「皆川博子の本棚」特製ペーパー

2015年に紀伊國屋書店新宿本店で行われた「皆川博子の本棚」フェア。そこで配布されたペーパーに掲載されているお薦め本リストが以下。 「皆川博子の本棚」特製ペーパー 万葉秀歌(斎藤茂吉)(岩波新書)塚本邦雄の歌集(『塚本邦雄の宇宙』等) 葛原妙子の歌集…

作ってみた。ラオスのひき肉のサラダ、ラーブ。

雪みたいな雨が会場のあたりでは降っていたけど、IELTSを受けてきた。Speakingのセクションで「大人が嘘をつくのはどのくらいシリアスか」という質問をされて、思わず「友達の誕生日のためにサプライズケーキを用意するぐらいのwhite lieくらいならいいんじ…

「「思考は口の中でつくられる」とトリスタン・ツァラは言った。エドモン・ジャベスは言った、「書物は火や水と同じくらい古い」と――そしてわたしたちは知っている、その両方が正しかったのだと。」(ジェローム・ローゼンバーグ『新たなるモデル、新たなるヴ…

池澤夏樹『塩の道』(書肆山田)

旅人の詩集である。旅についての本ではなく、旅人についての本。 旅人というのはつまり一番だまされや すいたぐいの人間で、もう少し先に何かあると思って一生でも歩きつづける 詩人は、このように静かに言い放つ。 波の打ち寄せる海をみて歌い、珊瑚礁の上…

2016年○月×日 自分が卒業した大学でtravel writingを講じているオーストラリア人のアナに手紙。この先生がやっている留学生向けの授業に、1ターム分混ぜさせてもらったのである。 池澤夏樹の詩集「塩の道」の中の一節を英語で紹介したい一心でつづったのだが…

飯田橋にある洋書/英語教材屋さんのNellie'sに行ったら、こんな本を見つけた。 「Science Fiction: A Very Short Introduction」。オックスフォード大学の人気シリーズ「Very Short Introduction」のうちの一冊。ジョナサン・カラーの『文学理論』の巻には大…

台北の「濃ゆい」マンガ喫茶「MangaSick」レポート

漫画喫茶+書店の役割を兼ねている台北のお店、MangaSick。うわさには聞いていたけどめちゃくちゃ濃いお店です。 日本の観光ガイドやネットなどでは「サブカル漫画」や「タコシェ的な漫画」を多く取り扱っているなどと紹介されていたりする(例:松田義人『…

「ユリイカ」特集:K−POPスタディーズ(18年11月号)。大和田俊之の論考的エッセイがタイトルからして面白い。というか、書き出しから飛ばしまくり。 ――――――――――――――――― 現在、私は職業的な危機を迎えている。これまでアメリカの音楽文化を専門に講じ、執筆も…