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高柳誠『都市の肖像』(書肆山田)

高柳誠。はじめに思潮社の〈詩・生成〉のシリーズで読んだ『高柳誠詩集』の、アナイス・ニン「技芸の冬(『人口の冬』)」の引用が強く記憶に焼きついている。愛すべきたたずまいのこの小さな本は、市庁舎、運河、天文台、競技場など名もないある都市の細部に…

堀田季何『人類の午後』(邑書林)

「ユリイカ」「特集:現代語の世界」の「われ発見せり」の欄に寄せた短文を記憶していたのと、栞(枝折)執筆者のひとりに恩田侑布子がいたので書店で購入した句集。この本でいくつもの賞を受賞したことも含め、著者については事実上なにも知らないまま読み始…

永田耕衣『しゃがむとまがり』(コーベブックス)

疑うべくもなく最高傑作。人類語で書かれていながら、半歩すでに人類語を踏みこえてしまっているようなところがある。俳人である著者の光源になっている西脇順三郎の代表作『旅人かへらず』中、二篇の詩に現れている「しゃがむ」および「まがり」のモチーフ…

Masayo Nonaka Remedios Varo: The Mexican Years(Rm Verlag)

2000年代に、こんなことを思ったことがあった。「幻想美術*の画集でクノップフやレメディオス・バロはいい画集が国内の出版社から出ていないなあ」。その頃と較べるといまはインターネットで洋書を買うのもはるかに簡単になった。Amazonでは著者名がMasayo N…

ケイト・ウィルヘルム『杜松の時』(サンリオSF文庫)

サイト「翻訳作品集成」のウィルヘルムの項には一言、「『杜松の時』の衝撃感は忘れられない」。筆者にとっても、これからの人生で幾度となく反芻してゆくだろう唯一無二の作品だった。その文明批評眼のありようにおいて、絶頂期のバラードや伊藤計劃『ハー…

大江健三郎『同時代ゲーム』(新潮文庫)

留学中、日本語の本も扱うシドニーの紀伊国屋で買った唯一の文芸書。作家の〈抵抗のための悪文〉*を味わい尽くすため、10年かけて全ページを音読して読んだ。たいていは眠る前に読んだから、村=国家=小宇宙の住人の壊す人やアポ爺やペリ爺や木から降りん人…

阿部大樹、タダジュン『翻訳目録』

生まれて初めてパウル・クレーの天使画を見たときのような驚き。翻訳への興味からこの本を手に取る人が多いと思うけど、社会言語学への最良の入門書であるようにも見え、ことばの不思議さの探索へといざなう絵本として、中学生や高校生のような層にも読まれ…

金井美恵子『軽いめまい』(講談社文庫)

www.ndbooks.com Polly Barton訳がイギリスではFitzcarraldo Editionsから、アメリカではNew Directionsから刊行なるということで(→Link:カバー装画が素敵!)、ネタバレありの感想をちょっとしたメモ程度に。※以下、ネタバレを含みます自分は4章「鳥の声」が…

Jock Sturges『Fanny』(Steidl)

ジョック・スタージスの現時点でのアメリカにおける最新作品集。表紙は白黒だが、多くのカラー写真を含む。Fannyという名のひとりのチャーミングな女性の、幼女からたくましく成長した大人に至るまでの永い時間を、フランスのMontalivetにて丹念に追っていく…

小林恭二『電話男』(ハルキ文庫)

面白かった。こういうスパッと読める文庫文で過ごす休日というのは、特別な出来事がなくても特別な一日になりうる。 以下、二つのレベルから簡潔なメモ程度に。まず個人的な思い出から語ると、この小説に初めて出会わせてくれたのは清水良典ほか編のアンソロ…

エルンスト・ユンガー『大理石の断崖の上で』(岩波書店)

フランス文学の孤峰ジュリアン・グラックに少なくない影響を与え、マンディアルグも熱愛を公言するドイツ文学の一冊(※1)。天沢退二郎も本書にはかなりこだわっている形跡がみられる。読めば読むほど不吉な精霊に身体が囲繞されていく稀有な読書体験。 雲香庵…

Russel Hoban『The Lion of Boaz-Jachin and Jachin-Boaz』(Valancourt)

One of the best novels that I have ever read. I used to have little interest in things like love, growth, or any other central feelings of human. Also, I had thought that explained why I am fond of writers like J.G.Ballard. This book, howe…

キアラン・カーソン『琥珀捕り』(東京創元社)

現代人は祖父に飢えている。動画投稿サイトやiTunesにひとたびアクセスすれば星の数以上のコンテンツが押し寄せてくる一方で、「太陽のもと、変わらぬものは何もなし」な社会のはげしい変化を背景に、実の祖父による長話や武勇伝に耳を傾ける機会は意外なま…

ブルース・スターリング『蝉の女王』(ハヤカワ文庫SF)

蠱惑的なアイデアが蠱惑的に詰まった蠱惑的な小さい本。interdisciplinaryなインスピレーション体(たい)がハチの巣のように充満していて、とすると「評価するための作品」というよりは、未来を発明し直す権利のある者たち――作家や科学者や建築家らが自己のイ…

米川良夫編訳『マリネッティをお少し』(非売品)

イタリア〈未来派〉の詩人・マリネッティの作品をその名の通り「少し」だけ編訳した一冊。〈未来派〉と言っても、たとえばタルホのようなキラキラ感を期待してはいけない。 コトバを円形に配置するとか、タイポグラフィ上の工夫があったりするけど、そのこと…

池澤夏樹『塩の道』(書肆山田)

旅人の詩集である。旅についての本ではなく、旅人についての本。 旅人というのはつまり一番だまされや すいたぐいの人間で、もう少し先に何かあると思って一生でも歩きつづける 詩人は、このように静かに言い放つ。 波の打ち寄せる海をみて歌い、珊瑚礁の上…

朱天心「古都」(国書刊行会)

初めに、川端康成の『古都』を小説の内部に大胆に取り込んでいるという紹介をどこかで見た。そのため、上巻が川端康成、下巻が朱天心によって書かれた『古都』という大きな一つの物語をイメージし、川端の読了後に手を休めずに読み始めた。 その選択は正しか…

Shaun Tan「Cicada」(Arthur A. Levine)

なんとびっくり、傑作『アライバル』の著者、ショーン・タンが新作のモチーフに選んだのは働き者の日本の会社員。 勤勉なさまをわが国の言い方では「アリのように働く」と言うことがあるけれど、面白いことにオーストラリア出身のこの作家はそんな存在をセミ…

朝井リョウ「時をかけるゆとり」(文春文庫)

史上最年少で直木賞を受賞した作者の初エッセイ集。おもに大学生活のことがつづられている。電車の中で読んでいて、何度も爆笑させられてしまった。 冒頭に置かれている「便意に司られる」には「走れメロス」への言及があるんだけど、この第1章に宿っている…

山尾悠子「飛ぶ孔雀」(「文學界」2013年8月号・2014年1月号)

ハヤカワ文庫JAの『夢の棲む街』を読み了えたのは僕が19歳になった日の誕生日。それから幾らかの歳月も水のように流れたが、この人の作品を同時代的に読むことができるというのは僥倖というほかない。著者文芸誌初進出となる本作は、これまでの幻想小説的な…

坂崎千春『片想いさん 恋と本とごはんのABC』(WAVE出版)

(……ついに、理想の本と出会ってしまった)...I just encountered my ideal.片想いさん" style="border: none;" />片想いさんposted with amazlet at 15.01.28坂崎 千春 WAVE出版 売り上げランキング: 286,109Amazon.co.jpで詳細を見る

『The Fantasic World of Gervasio Gallardo』

バランタイン・ブックス>でピーター・S・ビーグルやロード・ダンセイニの表紙を飾った、スペインのシュルレアリストGervasio Gallardoの画集。日本語圏のインターネットにはいっさい情報がないんですが、カタカナだとこれでヘルバシオ・ハラルド、と読みま…

『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT』(PARCO出版)

鳥でもなく、スーパーマンでもないのに大空を駆け回る。バケツいっぱいの虹色ペンキをひっくり返し、蛮行ののろしを海峡を跳び越えながらたなびかせる。グローバルウォーミングなんて信じない?バンクシー、名前だけしかわからないけど、きみは一体何者なん…

筒井康隆『あるいは酒でいっぱいの海』(集英社文庫)

面白かった。「面白かった!」ということ以外に、とくに言いたいことなんてない気もする。初期ショートショート集ということなんだけれど、ほかのショートショート集……たとえば『笑うな』あたりとくらべてみると、叙情的な作品が多い気がした。まあ、『笑う…

江國香織+飯野和好『桃子』(旬報社)

驚いた。このひとは、こんな話も書ける人だったのか。七歳の幼女が、ひとりの修行僧の人生を狂わせ、朽ちらせていく。ぞくぞくとふるえながら、息をつめて一冊を読んだ。古寺がむらさきにもえ上がり、群青の花々がすべてを覆っていくラスト。その魅力につい…

池澤夏樹『塩の道』(書肆山田)

旅人の詩集である。旅についての本ではなく、旅人についての本。 旅人というのはつまり一番だまされや すいたぐいの人間で、もう少し先に何 かあると思って一生でも歩きつづける 詩人は、このように静かに言い放つ。波の打ち寄せる海をみて歌い、珊瑚礁の上…

イタロ・カルヴィーノ「磁気嵐」(「新潮」1990年9月号)

『レ・コスミコミケ』『柔かい月』を読みとおした感動から数年。この自在な小説空間のなかにふたたび入っていくよろこびを享受できるのは、一つの幸せである(Qfwfqお爺さん、また会えたね!)。ストーリーの紹介などはここでは控えさせていただこう。だって…

Ryan McGinely『Whistle for the wind』(Rizzali)

6月に出たばかりの新刊。人間の裸を被写体とする写真集では、ジョック・スタージス以来のインパクトかも。鬨の声をあげながら、獣のように無防備な少年少女が駆け回る。現代では失われたはずの(うそ)、秘密の遊び場で。ピアス、花火。ターザン、高速道路。レ…

ヴァンス・アンダール「広くてすてきな宇宙じゃないか」(SFマガジン1990年10月号)

読みなおし。はじめて読んだときよりも楽しめた。さまざまな種(しゅ)の集う宇宙の町の光景を、リリカルに簡素にスケッチしてみせる小品。小笠原豊樹の翻訳のおかげなのか、果実のようにみずみずしい文章だ。結び近く、 「おじいさんは、一生涯、そうやって地…

太田大八『かさ』(文研出版)

女の子がかさをさし、ヨチヨチと街を歩いていく。だれだろうこの子、どこに向かっているんだろう?白黒の絵柄なのに、かさだけはあざやかな赤なんだ。ああ、犬コロに泥水はね飛ばされたりしてら。あら、美味しそうなドーナツ屋さん。駅まで着いたら、もうい…