東大の現代文芸論の公式サイト、Internet Archiveを使えば去年以前のシラバス、つまり各科目の授業紹介をこっそりみることができる。多和田葉子の授業、「現代文学と多言語世界—精読と創作」の内容説明。 「1.小説の細部に身体ごと入り込んで、宇宙を旅する…

魂の文学の書き手は、後へは退けない「内へ内へ」の筆遣いで、あの神秘の王国の階層を一層また一層と開示し、人の感覚を牽引して、あの美しい見事な構造へ、あの古い混沌の内核へとわけ入り、底知れない人間性の本質目指して休みなく突進していく。およそ認…

イ・ソンチャン『オマエラ、軍隊シッテルカ!? 疾風怒濤の入隊編』(バジリコ)

BTSのメンバーが入隊することが大ニュースになるような世界で、韓国の軍隊のことが知りたくて手に取った一冊。もと軍人の若者がキツい軍隊生活のことをセキララにネット上で綴った本書は、書籍化するとすぐに韓国ではベストセラーとなったと訳者あとがきにあ…

ある日本文学研究者/翻訳家とやりとりをしていたら、大学の授業で倉橋由美子を教材として扱うことも検討したが、その作品の英訳の質から結果として択ばなかった、という趣旨の一文があった。自分はその作品がどの作品かも知らないし、よって日本語と英訳をく…

『日仏翻訳交流の過去と未来』(大修館書店、2014)。パトリック・オノレの文章によると、フランス出版界では、2007年以降、日本語が英語に次いで翻訳点数第2位の言語になっている。マンガの寄与が多いそうだけど、ドイツ語やスペイン語よりも上とは。なお、台…

『最後のユニコーン』で知られるピーター・S・ビーグルは、ラッセル・ホーバン『ボアズ=ヤキンのライオン』に「くやしい。ぼくは本書のような物語を書きたかったのだ」と最上級の賛辞を寄せた。そのホーバンは、ジョン・クロウリーについて、Crowley is one…

言語学・文化人類学者の西江雅之による、「エスニック料理」という語についての目から鱗が何枚も落ちるような学術的エッセイ。(→Link) ところで、「エスニック(ethnic)」や「エスニック・グループ(ethnic group)」という語を日本語に訳す場合、しばしば…

知り合いの留学生がSNSにポストしていた投稿。「今日、「言葉狩り」という言葉を知りました。「紅葉狩り」のように、美しい言葉を見つけて楽しむということだろうと思いましたが、違っていました。そのほうが楽しいのにね。」こういうのをフレッシュな物の見…

スカイプでスロヴァキアの本好きと話す。すごくびっくりしたのが、注文していた英語の本を受け取るために今度ほかの国まで列車で旅行しに行く、とうれしそうにしていたこと。どの国にもAmazonがあるわけではないことは知っているけれど、いったいどういうこ…

あるとき「大学の卒論で扱ったのはジェンダーSFだった」と人前でこぼしたら、「さまざまなSF小説にみられる女性像」を精査したのだと思われて、面白い誤解のされ方だなと感じたことがある。たとえば「海を見る人」「美亜へ贈る真珠」「たんぽぽ娘」といった…

英語圏では翻訳と感じさせない翻訳が好まれる傾向がある、とものの本には書いてある*。でもわたしは、翻訳書を読んでいるときに、それぞれの翻訳家の体臭を眼と鼻と脳とで記憶し、次に同じにおいがいつ鼻孔をくすぐるのか、ノラ犬のように愉しみとしている。…

岡田恵美子、北原圭一、鈴木珠里編『イランを知るための65章』(明石書店)。テヘランの地下鉄には痴漢を防ぐための女性専用車両があり、全員がヘジャーブをつけているので遠くからだと車両いっぱいの鳥の群れのように見えるのだとか。これについてイランの人…

千葉文夫『ファントマ幻想』(青土社、1998)より、「パリのキューバ人 アレッホ・カルペンチェール」。長年読みたい!と思っていた、11年に及ぶカルペンティエールのパリ時代について扱った論考(著者は自分の熱愛の作家、マルセル・シュオッブの全集の翻訳家…

ともに1930年代生まれの詩人、多田智満子や矢川澄子が「宇宙」ということばをもちいるその瞬間、読者をとり囲む宇宙は実際に鳴動するという気がする。サイエンスフィクションの作品の中には、単なる書き割りの宇宙も登場するかもしれない。世代は下り、雪舟…

稲垣足穂が現代のマンガ家たちにもたらしたもの(思案中)

白山宣之…『10月のプラネタリウム』では足穂作品に想を得た作品が収録、呉智英も『マンガ狂につける薬』シリーズで指摘伊藤重夫…神戸という舞台、コマ間の飛躍。『ダイヤモンド・因数猫分解』では作家、稲垣足穂そのひとが登場する作品も鈴木翁二…「白昼見」…

小説のストラテジー

ル=グィンの小さな創作指南書、Steering The Craft。この書物で前提となっている考え方というのは、大海に漂う魔法のボートを乗組員が操舵するように、作家は自分の技術をきびしくコントロールすべきであるということだ。ただでさえ船体は波で揺動してやま…

特別公開?!海外の知人に日本文学を読んでもらえないか、と頼むときのメールの一例。こういうメールを送る活動は10年以上前からおこなっているんですが、今回リライトしてこころみに「150-300 words in a text file」という条件を加えています。読んでくれ…

わたしがシドニーで泊まったのは、キングス・クロスという地城の歓楽街のすぐそばにあるホテルだった。あまり古本屋めぐりをする時間がなくて、一軒だけ行ったのがそのホテルの近所にある店。なにしろ怪しげな歓楽街のそばだけに、想像してはいたが、やはり…

The book as furniture. Shelved rows of books warm and brighten the starkest room, and scattered single volumes reveal mental processes in progress, books in the act of consumption, abandoned but readily resumable, tomorrow or next year. By…

A Note on Translators' Notes

(日本文学の翻訳に関わる方向けに別の場所で書いた記事ですが、こちらにも転載します)From the standpoint of its history, translation is umbilical to the Japanese language. In other words, one cannot emphasize enough on how much tremendous effec…

「多様性」という漢字三文字をジッと見つめても、それはあまりに端的で素っ気なく、多様性の「た」の字もないように感じられる。それは英語のdiversityだって同じ。南アフリカの人と初対面で話すと、「My country is a rainbow nation!」とよくニコニコしな…

あくまできょうの気分で、自分のお気に入り映画を少しばかり並べてみる。何作か、映画ではなく短篇の映像作品といったほうが正しいものも入っております。2001年宇宙の旅(アメリカ) ミツバチのささやき(スペイン) はちどり(韓国) 牯嶺街少年殺人事件(台湾) …

CSFDB(中文科幻数据库)中国の作家の方から教えてもらった中国のSFデータベース(リンクはトップページではありません)。たとえばロバート・シルヴァーバーグの項をのぞくと、『夜の翼』が第三回星雲賞海外長編部門受賞、などといった日本での賞の受賞歴まで書…

2023 New and Upcoming Japanese Fiction Releases Here’s a great webpage where you can find Japanese literary fiction works that will be published in English-speaking countries. This makes me rejoice because it includes not only the latest w…

Amazon.frで、日本の作家性の強いマンガから『ドグラ・マグラ』『高丘親王航海記』までをフランス語に訳すパトリック・オノレの名で検索してみると、本当に幅広い作品を訳していて驚く。ユズキカズなんて訳しているのにはびっくりするほかない。 また、よし…

The Translation DatabasePublishers Weeklyが提供している、国を(国も)指定して検索できる翻訳データベース。完全に網羅的ではないかもしれませんが、アメリカで刊行された日本のリテラリーフィクションを年ごとにチェックできます(ただし2008年以降限定)。…

ジョン・アップダイク『アップダイクと私』(河出書房新社)。ちょうど先日、母校の大学図書館で同著者のDue Considerationsを見つけて少しコピーを取ってきたものの、批評・エッセイ集の全体像がまったくつかめずにいた。この本の巻末にある若島正の解説はま…

ここ7,8年くらいで話したポーランドの若者(あくまで個人的な推定では20代以下)のうち、詩人・シンボルスカの話題を振ってみて知らなかったひとはひとりもいない(といっても15人には満たないくらいの人数だけど)。ある時、「日本ではニンギョの翻訳が最近出た…

永田耕衣『しゃがむとまがり』(コーベブックス)

疑うべくもなく最高傑作。人類語で書かれていながら、半歩すでに人類語を踏みこえてしまっているようなところがある。俳人である著者の光源になっている西脇順三郎の代表作『旅人かへらず』中、二篇の詩に現れている「しゃがむ」および「まがり」のモチーフ…

MoMA Design Storeのグッズで、名画をゆるキャラ風(!?)にデフォルメしたコースター(左上はモネ)。荒巻義雄センセイがSNSをやっているかは存じ上げないが、ジェフ・アンダミア編のアンソロジーにも収録された傑作「柔かい時計」にかけてダリのコレをプロフ…