河出文庫の『20世紀SF 1960年代・砂の檻』を買う。アンソロジー。愛着のある一冊だけれど、持っていなかった。

冒頭から、4作目までの流れがいい。ゼラズニイエリスンディレイニーの勢いと才気。クラーク「メイルシュトレーム2」には、ショックを受けた。大宇宙で、渦巻に飲み込まれつつある飛行士が、そこからなんとか脱出しようと、苦闘する話だったとおもう。極限状況下に人間が放り込まれた場合、いかなる行動をとるのか。小川一水「漂った男」とも通じるおもしろさ、手に汗を握らされる。

ふたりの編者による短文が、いちいち刺激的だ。巻末解説だけではなくて、作品ごとにも紹介文が付されている。時代や社会の動きと、SFの歴史・発展とが結びつけられる。社会の変化と小説ジャンルの変容とが、強固にリンクしているという感覚。

20世紀のSF、SFの20世紀。ここにおさめられた「メイルシュトレーム2」は、1965年に<プレイボーイ>誌に発表。その3年後、68年に、映画史上の最高傑作に数えられることもある「2001年宇宙の旅」がアメリカで初公開。原作者アーサー・C・クラークと、監督スタンリー・キューブリックが、ともにアイデアを交換しながら完成にいたったものだった。翌69年、人類はその歴史上初めて、月面着陸に成功。ニール・アームストロングを船長とする、いわゆるアポロ11号計画である。この際クラークは、あるテレビ中継のコメンテーターまでつとめていたという。……そんなことまでを、中村融さん、山岸真さんの解説から知ることができる。

1960年代、英米の活字SFは革命の真っ最中にあった。人間の無意識を走査する艦船として、<新しい波>号がインナースペースをぐいぐいと潜行していく。砂の檻やリスの檻は、たぶんそのどちらもが、ジャンルの成熟に必要な、たいせつな檻だった。いっぽう空に目を転じれば、本物のロケットが今まさに月へと飛んでいるところで――。ああ、なんだかすごい時代だったんだなあ。


20世紀SF〈3〉1960年代・砂の檻 (河出文庫)
アーサー・C. クラーク ロジャー ゼラズニイ ハーラン エリスン サミュエル・R. ディレイニー J.G. バラード
河出書房新社
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