ヴァンス・アンダール「広くてすてきな宇宙じゃないか」(SFマガジン1990年10月号)

読みなおし。はじめて読んだときよりも楽しめた。さまざまな種(しゅ)の集う宇宙の町の光景を、リリカルに簡素にスケッチしてみせる小品。小笠原豊樹の翻訳のおかげなのか、果実のようにみずみずしい文章だ。結び近く、

「おじいさんは、一生涯、そうやって地球の土を袋に入れて持って歩くの」
「ちがうよ、坊や。一生涯、地球の土が、おじいさんを持って歩いているようなものさ」

という洒落た会話がいい。この箇所に至るまでのみじかい展開と作品のタイトルとが、ふいにいちどきに通じあう。そのとき読み手は、たとえ一瞬であっても宇宙の広さを識り、感銘を受けるのだ。