朝井リョウ「時をかけるゆとり」(文春文庫)

史上最年少で直木賞を受賞した作者の初エッセイ集。おもに大学生活のことがつづられている。電車の中で読んでいて、何度も爆笑させられてしまった。

冒頭に置かれている「便意に司られる」には「走れメロス」への言及があるんだけど、この第1章に宿っている爽快な疾走感が本全体のトーンを決めているように思える。

同時に、90年代後半の初期テキストサイト文化の最良の部分にも通じる面白さ/時に自虐ちっくな文章芸だなとも個人的には感じました(テキストサイトも大学生文化の一側面。というところがあったので)。

とあるメディアで、朝井リョウの作品が「ポジティブな劣等感を胸に」という見出しとともに紹介されていた。すぐれた作家の条件である冷静な観察眼をこの人が備えているのは確かなこととして、プラスとてつもないパッションが胸の中で燃えている気がしてうれしい。これだけのほとばしる文才があって、なおかつダンスサークルに所属していたり、京都まで自転車で行ったり、御蔵島の盆踊りの輪に加わったりしてしまう機動力と行動力があるのもうらやましい。

世の中には「ゆとり世代」という言葉もあるけれど、「とある世代であること」になんて還元されない快活な「若さ」がここにはあると思うので、すごーく応援したいです。

時をかけるゆとり (文春文庫)
朝井 リョウ
文藝春秋 (2014-12-04)
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