ジェフ・ライマン「征たれざる国」(中村融・山岸真編『20世紀SF 1980年代 冬のマーケット』河出文庫)

かつて「SFオンライン」というウェブマガジンがあった。SFマガジンとはまたすこし異なった編集方針で好きだったのだが、その中でも特にくり返し見ていたコンテンツが「20世紀SF全作品考課表」(特集「『20世紀SF』を読もう」内)。ずばりあの河出文庫の超巨大アンソロジーのすべての作品に対し、SFファンが5点満点で採点を加えるもので、大森望水鏡子なども参加していた。

この考課表の集計結果で、「町かどの穴」や「デス博士の島その他の物語」といった名だたる傑作をしのいで2位にランクインしているのがこのライマンの「征たれざる国」である(1位はイーガン「しあわせの理由」なのだけど、イーガンはいわゆる「別格」なので、イーガンを除けば1位なのだ!とヘンなことを言ってみたい)。

前評判を知りながら手に取ったことになる。凄絶だった。しかも、予想していたのとはまったく異なる方向へのおそろしさ。核となる部分の紹介は避けるけれど、ル=グインにとってのオメラスがそうであるのと同じような意味で、志が高く、メッセージ性が強い作品である。あるいはこれをしもルポタージュと呼べるのならば、文学的肉親は原民喜「夏の花」やヴォネガットの「ビアフラ――裏切られた民衆」だろうか。

描いているのは今現在も世界各地で続いている紛争や民族問題であり、東南アジアのとある具体的な国名こそ最後まで出ていないだけで、華僑やアメリカ文化の衝撃的な描かれ方によって、いやでも読者は小説の外の現実の方へと目を向けさせられる。

思想的に検討するならばこれは先進国側にいる住人のひとつの内省であって、政治的に保守派の作家なら、全身全霊のこもったこういう作品を書くはずはないと結論づけられる。本書刊行時の2001年に、ふだん作品のコメントに政治的な発言などまず絡めない大森望が「アフガン空爆の続く今こそ再読したい傑作」と端的にもらしているのも(『現代SF1500冊』)、戦場の映像を目撃してしまった後には苦みとともに意味が飲み込めるのだ。(2018.12.20)

追記

考課表を見返していたらまったく同得点による2位がもう一作あって、それはティプトリーの「接続された女」。とはいえ、それでもライマンが2位という事実は変わりない。

20世紀SF〈5〉1980年代―冬のマーケット (河出文庫)
中村 融 山岸 真
河出書房新社
売り上げランキング: 503,941