ユリイカ」特集:K−POPスタディーズ(18年11月号)。大和田俊之の論考的エッセイがタイトルからして面白い。というか、書き出しから飛ばしまくり。

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 現在、私は職業的な危機を迎えている。これまでアメリカの音楽文化を専門に講じ、執筆もしてきたが、正直に告白すると、昨年以来アメリカの音楽に接する時間はめっきり減ってしまった。その代わり、私はK-POPばかり聴くようになっている。

Sportifyを開いても、以前は自動的にRap Cavierなどのヒップホップのプレイリストを流していたのが、最近はほぼ無意識にK-POP DaeBakやK-POP Risingなどのリストをシャッフル再生している。アメリカのレズビアンカップルがK-POPのリアクション動画を次々に投稿する「K!Junkies」にチャンネル登録し、日々新曲のチェックに勤しむだけでなく、ツイッターに生息するK-POP沼の皆さんに導かれつつ、HEIZEやYESEO、OOHYOなどいわゆるアイドル以外のジャンルも聴くようになった。

大学のアメリ音楽史の授業でジャズの映像を見せようとスクリーンにYoutubeのサイトを開くと、履歴欄にBTSやRed VelvetやNCT127やBLACKPINKなどの映像が並んで学生から失笑が漏れる有様だ。また昨年の授業中、調子に乗ってBTSアメリカでの成功についてひとしきり話したときは、リアクションペーパーで「先生、ご自分の専門を見失わないでください。いいかげんにヒップホップに戻ってきてください」と叱責されたこともある。

大和田俊之「博士(アメリカ文学)の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めてK-POPを愛するようになったか」
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論考全体が起承転結をそなえた抱腹絶倒のエッセイになっていて、それでいてアメリ音楽史に通暁している人だからこその知識がふんだんに詰めこまれていて満&足。

特集全体は通読していないんですが、他の方の文章にも熱がこもっていて「へえ~!」と勉強になります。BTS「春の日」のMVの中でル=グィンの短篇に由来する「オメラス」という名の宿が出てくるとか、ル=グィンのあの作品が好きかつ、にわかArmyのワタシは不思議な感慨を覚える次第。(2019)