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あなたが そっと触れるだけで
わたしは 花になる
身体のすべてに
化学変化が起こる
草の生い茂る牧場となって横たわり
日差しの中で 芳しい香を放つ
あなたの掌が撫でると わたしのハーブと
スパイスが みな溢れ出る

葉の一枚一枚が
さからいがたく開き
熱気の中で 息をつく
無数の野いちごと
芳しい紅赤はこべが
茎の先から下向きに朱に染まっていき
根本に生い茂る灯心草を刈るのは
苦もないこと

「あなたが 触れるだけで」部分(ヌーラ・ニー・ゴーノル『ファラオの娘』思潮社)

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ヌーラ・ニー・ゴーノルは現代アイルランドの女性詩人。この詩集はエロティックな作品、セックスの歓びをそのまま謳い上げるような作品に傑作が多いように感じられた。女性によるポルノグラフィ(の質をたたえた詩)はそのまま男性中心主義の相対化に繋がるし、何よりこれは無類に美しい。