短篇小説日和

・マイクル・ビショップ「デミル伯の城」(「SF宝石」1979年10月号)

ビショップを熱愛し大学の卒論にまで選んでしまった山岸真さんが、とある場所でビショップの短編ベスト3に含めていた作品。そこに「おそらく誰も同意しないであろう」「デミル伯の城」という文句があったのをおれは見逃さなかった。そんな風に言われたら、逆に読みたくなってしまうではありませんか。

格調高い文章を書くビショップにしては、これは小粋なユーモア路線というか、言ってしまえば余技だと思う。太陽の上らないこの世界はデミル伯に統べられており、人々は〈宝石城〉のあまたの窓に映し出される無数の映画を永遠に見続けなければいけないという苦役に従事している。食料はただ空腹をしのぐためだけのポップコーンとコーラのみで、スクリーンを適切に見つめているかどうかを監視する、馬に乗った〈黙らせ屋〉たちの巡回も止むことがない…。

本作のヘンな所は、異世界が舞台でありながら登場するおびただしい映画作品は、国産「オズの魔法使い」からフェリーニブニュエル、「七人の侍」まで僕たちが生きるこの現実界のそれであること。〈黙らせ屋〉の格好もカウボーイだし、ディティールを加味すればアメリカ社会についての批評として読めると思う。こういうごく軽めの小品でも強烈なツイストが効いてスタイリストぶりが発揮されてしまうあたり、著者のもっと別の作品にも手を出したくなる。

・デーモン・ナイト「輪舞」(「SFマガジン」1985年7月号)

派手さはないが読者を余韻で包み込み、読んで数年もたってから「思い出させてしまう」小説とはこういう小説なのではないか。ハンス・へニー・ヤーンの「鉛の夜」のような鈍色(にびいろ)の彷徨小説が好きな人、子どもの頃、夕闇の時間に林で迷った経験を持つ人へ。