アンダーカレント

中村融さんのinformativeなブログ、SFスキャナー・ダークリーを見返していてうなってしまった記事。

sfscannerdarkly.blog.fc2.com

共編者の山岸真氏にも秘密にしていたが、河出文庫の『20世紀SF』の裏テーマとして「逃避としての幻想の意味を幻想小説の形式で追求した作品」を入れていくという方針があったという述懐。ゼナ・ヘンダースン「なんでも箱」、ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語」、ジェフ・ライマン「征たれざる国」……。自分は通読していない巻のほうが多いので驚いた、という資格があるかはわからないけど、この伏流についての指摘は「言われてみれば!」と驚いてしまった。

自分の鍾愛する伊藤典夫編『ファンタジーへの誘い』(講談社文庫)は「SF作家によるファンタジイ」を集めたというのが表向きのコンセプトなのだが、訳者あとがきの最後の一行に至ったときにおおきく目を見開いた記憶がある。そこには、「懐疑派」の読者に向けたアンソロジーであるということがはっきりと言明されているのだ。エムシュウィラー「順応性」、ディック「この卑しい地上に」、オールディス「不可視配給株式会社」、セントクレア「街角の女神」……全作品にあてはまるとは思わないけど、哲学的なエッセンスに満ちた作品や、主人公がある種の懐疑を抱きながらどこかを彷徨するような作品が多いようにたしかにみえるのだ。