多島海にて

セブの語学学校。語学学校といっても、曜日によっては午前中だけの授業の日もある。残る午後の時間は「自主学習」か「自由時間」となるわけだけど、その日はオリエンテーションでいっしょになった女の子と学校から徒歩1分のスーパーに行くことにした。

その子はいまは愛知教育大学の3年生で、数ヶ月前は中国の語学学校でも数週間中国語を学んでいたとのこと。小さなショッピングモールの中に入っている平日のスーパーはがらんとしていて、棚と棚の間がやたらに広いこともあり「二人だけで歩いている」という感覚が風船のように自然なかたちでふくらんでくる。

おたがいにとってはじめてのフィリピンのスーパー、なぜか足どりは飲み物のコーナーに向かっていた。常夏の国で豊かなバリエーションがもとめられるのか、壁いちめんに三段にもなって冷たいドリンクがズラリと並んでいる。
「あたし、どこの国行ってもヤクルト飲むんです。この前中国行ったときも飲んだんですけど、微妙に日本のと味ちがうんですよ」
「え……日本以外にもヤクルトってあるの?」
「あるんですよー」
驚きを隠せない自分。という僕は僕で、どこの国に行っても「面白いかたち(デザイン)の飲み物のビンやペットボトルを探し出す」というひそかな趣味がある。
「ねえ、これ」
ビンの口に近い部分はふくらんでいるのに、その下が輪のようにいったん狭くなり、底に近づくともう一度ふくらむという数字の「8」のような形をしたソーダを僕は指さす。
「これ、くびれすごくない?女の子にたとえたらボン・キュッ・ボンだよ」
「www」
それからしばらく、「棚に並んでいる商品を女体(にょたい)に見立て、いちいちスタイルを吟味する」という非常に笑える遊びをしていっしょに過ごした。

連絡先も交換しなかったけど、目のパッチリしたまぶしいあの子はいま何をしているんだろう。(2017)