このひとといると
あたしはきっと神さまになる
桜餡いりのパン焼いて もっていった

「つきあってくれるなら たべて」
あたしを そう好きではなかったはずなのに
笑って たべてくれた

それから
毎日あたしの焼いたパンを 二人はたべた
膝と膝をつきあわせ
すきな本 すきなことの話
かれはパンを小さくちぎり とても時間をかけてたべ
あたしの胸にコイン投入口のような
金色の傷がうまれ
そこから 滝のように流れるものがある

かれがきょう着てる服 も
かれの手で 着てきたんだと おもったら
知らない世界のことばが
とつぜん意味になって迫ってくるみたい
あたしは 熱い 海豚

たすけて
たすけないで
たすけて
たすけないで
詩とパンしか 必要ないだなんて

嬉しい
(雪舟えま「恋とパン」『地球の恋人たちの朝食』)