『カモガワGブックス〈未来の文学〉完結記念号』では、若島正が「未来の〈未来の文学〉」というタイトルで未訳の傑作を紹介しているのだけど、「それ読みたいやつ!」と思わず声をあげてしまったのがイギリスの女性作家、クリスティン・ブルック=ローズ。由良君美編『現代イギリス幻想小説』(白水社)で読んだ「関係」「足」が稀少な味わいの作品で、ずっともっと読みたいと思っているのだ。

この人、英語圏モダニズム詩の研究で名を馳せ(詩論も昔「ユリイカ」に訳出)、ヌーヴォーロマンを仏語から英語に訳しつつ幻想小説・SFの批評も書いているみたいな20世紀の前衛運動を貪欲に吸収し続けたようなキャリアで興味深い。SFのコンテクストだと、「NW-SF」16号の「女性SF作家名鑑」や「SFの本」の巽孝之の文章でも紹介されているんだけど、小説の邦訳は上記の二篇だけなんじゃないでしょうか。本国での評価はイギリス文学者の富士川義之の文章*も参考になる。

邦訳がほとんどない作家を取り上げて見栄を張りたいとかじゃなくて、この二篇だけで山尾悠子「黒金」やジョゼフィン・サクストン「障壁」、朝吹真理子『流跡』あたりから金井美恵子の初期短篇にまで比肩すると本気で思っています。

*富士川義之、樋口大介、江中直紀、沼野充義青山南『世界の文学のいま』(福武書店)