オノレ氏の奇妙な愛情

澁澤龍彦の傑作『高丘親王航海記』、今年の9月にフランス語版が出版されていたことを知る。訳者はベストセラーのマンガから『ドグラ・マグラ』までをフランス語に移し替えてきたベテラン、パトリック・オノレ

個人的に面白いなと思うのは、英語圏でも『高丘親王航海記』を紹介する動きがついここ一、二年でみられること。注目を集めた「文藝」2020年冬号におけるアンケート、「世界に拡がる日本文学の行方」でDavid Boydは一番好きな日本の作家として澁澤龍彦を挙げ、『高丘親王航海記』をベストとしている。2021年冬には柴田元幸ら編集の英語版「MONKEY」2号に氏による抄訳が掲載。ただし、現時点では単行本としては出版されていない。

ふと思い起こすと、英語圏アヴァンギャルド文学好きには(この層はかならずしも「日本文学の愛好家」と一致しない)、『ドグラ・マグラ』は未訳のカルト長編として名のみ知られている。「異端」という言葉は以前ほど聞かなくなったとはいえ、熱烈な読者をいまも抱える以上の二つの小説の移入に際し、フランスはオノレ氏の奇妙な情熱によって英語圏に先んじたと言える。なお、氏が『定本夢野久作全集3』の月報に寄せた文章は日本文学の普及に関心のある方すべてに読んでもらいたいような素晴らしいものなのだけど、その話はまたそのうち。