第2位「千と千尋の神隠し」 Movie 7点

制作に投入するリソースの莫大さとその燃焼効率の高さでは、国内に太刀打ちできるもののない宮崎劇場アニメ。描かれる世界の圧倒的なイメージと存在感は、それだけで見る者を黙らせる迫力を持っている。しかし同時に、周囲の期待に答えて劇場用長編という大舞台で成功を重ね続けるうち、また、高度な制作体制を維持・発展させていくために、製作体制を劇場長編というフォーマットに縛ってしまうことにもなった。「千と千尋の神隠し」をTV作品として企画することが出来ないという悲しい事実がその縛りを浮かび上がらせる。いや、TVどころか、映画を3時間の尺にすること、さらに前後編に上映を分割すること、そのために製作期間を延長することなどの選択肢は、もはや宮崎アニメには許されない。今回、2時間で描ききれないものを2時間の製品に仕立てなくてはならなくなったとき、宮崎監督はその剛腕でもって何度目かの奇跡を生み出そうとした。驚くべきことにそれはかなりの部分で成功しかけた。その超人的手腕には感嘆する。しかし、この映画の中にはそれでも埋めることの出来なかった欠落がいくつも残った。主人公の変化の早さと唐突さもそのひとつだ。

だが一方で、欠落を惜しむにはこの映画の世界はあまりに濃密なのだ。たとえどんなエピソードであっても、すでにあるシーンやカットに取って代わるほどのものがあるだろうか、と思わせるほどの魅力が画面には溢れている。単発の劇場アニメとしてはおそらくもう手の入れようがない。だからこそ、劇場作品という袋小路で美しく結晶化してしまったこの物語を、描かれなかった世界の一層の奥行きを、ほろ苦さとともに惜しい、と思う。

(01年度「B館」極私的マンガBEST10 アニメ部門)

こういうレビュー、いいですね。極私的名文。