2012-01-01から1年間の記事一覧

かつあげとは、いやなものである。かつどんなら、食べたくなるけれど。友人には、大学に入学したその日に、制服を着た高校生に囲まれたというヤツがいる。もし、ノーベル賞受賞作家・大江健三郎さんがかつあげの標的になってしまったら、どうなるだろうか。…

イタロ・カルヴィーノ「磁気嵐」(「新潮」1990年9月号)

『レ・コスミコミケ』『柔かい月』を読みとおした感動から数年。この自在な小説空間のなかにふたたび入っていくよろこびを享受できるのは、一つの幸せである(Qfwfqお爺さん、また会えたね!)。ストーリーの紹介などはここでは控えさせていただこう。だって…

オーストラリアに住んでいるというと、たまにグレッグ・イーガンのことについて聞かれることがある。僕はまったくいい読者ではないのだけれど、ひとつ記事をアップしてみることにする。オーストラリア最大の都市、ここシドニーでは、なんとイーガンの本を手…

二ノ宮知子『平成よっぱらい研究所』(祥伝社)

『のだめカンタービレ』ははじめの巻でやめちゃっていたけれど、これは超絶おもしろかった。ナンセンス&アヴァンギャルドなエッセイもの。飲んべえの所長(作者)が、愉快な研究員たち(もりへーがいいキャラ……)とともに狼藉とハレンチのかぎりを尽くす。ここ…

シドニーには、ここに住む日本人のためのフリーマガジンのようなものがいくつかある。JENTA(ジェンタ)はそのうちのひとつだ。英字新聞みたいな外見なのだけど、日本語・英語両方の記事があるのが面白い。 ある日、そのジェンタの最新号を手に入れた僕は、SMA…

最近よく観ているのは、平賀さち枝「江の島」のPV。どういうわけか好きです。かん高く鳴るヌーサヘッドの鳴き砂を想像しながら、気分はもう少しあたり前の母国へ。ちっとも退屈ではない、境界としての浜辺。

3月24日 (…)ずいぶん神経をつかっての通関となったが、全員出口から出ることができた。バスに乗るからと空港の外へ。さすが南半球。今年は日本も三月末にして春から初夏の日差しがあったが、こちらは季節としては夏の終わり。日差しが強い。景色全体が明るく…

こうしてひとり街道を歩いていると、横切ってゆく土地が――土地の物音や匂い、その息づかいや響きなどよりはるかに――土地そのものが、沁み込んでくる。ほかのどんな移動手段でもこんなことは起きない。九月の蜘蛛の巣にくるまるようにして風景にくるまって、…

はてなマンガナツ100

はてなダイアリーでウェブ日記をつけているひとたちが、心のおもむくままに好きなマンガを100作あげてみる。という遊びのようです。……今年こそ参加してみようと思ったのですが、100作(!)はさすがにちょっと多いような気がします。なので、ぱっと思いつくぶ…

Ryan McGinely『Whistle for the wind』(Rizzali)

6月に出たばかりの新刊。人間の裸を被写体とする写真集では、ジョック・スタージス以来のインパクトかも。鬨の声をあげながら、獣のように無防備な少年少女が駆け回る。現代では失われたはずの(うそ)、秘密の遊び場で。ピアス、花火。ターザン、高速道路。レ…

ヴァンス・アンダール「広くてすてきな宇宙じゃないか」(SFマガジン1990年10月号)

読みなおし。はじめて読んだときよりも楽しめた。さまざまな種(しゅ)の集う宇宙の町の光景を、リリカルに簡素にスケッチしてみせる小品。小笠原豊樹の翻訳のおかげなのか、果実のようにみずみずしい文章だ。結び近く、 「おじいさんは、一生涯、そうやって地…

第2位「千と千尋の神隠し」 Movie 7点 制作に投入するリソースの莫大さとその燃焼効率の高さでは、国内に太刀打ちできるもののない宮崎劇場アニメ。描かれる世界の圧倒的なイメージと存在感は、それだけで見る者を黙らせる迫力を持っている。しかし同時に、…

ウィンザー・マッケイ『夢の国のリトル・ニモ』完訳版が2013年に刊行予定だそうです。「初期アメリカ新聞コミック傑作選」というセットのうちの一冊で、この巻だけ買うことはできないのかもしれませんが、大変めでたい。これは本当に傑作なので、みんなで図…

太田大八『かさ』(文研出版)

女の子がかさをさし、ヨチヨチと街を歩いていく。だれだろうこの子、どこに向かっているんだろう?白黒の絵柄なのに、かさだけはあざやかな赤なんだ。ああ、犬コロに泥水はね飛ばされたりしてら。あら、美味しそうなドーナツ屋さん。駅まで着いたら、もうい…

谷口ジロー+久住昌之「孤独のグルメ」の新作(先々週号くらいのSPA!)

いや、おどろいた。これは新展開ではないかしら。すくなくとも、こういう話はこれまでになかった。五郎がなぜか砂丘を登っているという、意表外かつ謎めいた光景。ここから作品ははじまる。こんなマンガだったっけ?食事の場面は、いつもながらに美味しそう…

岩岡ヒサエ『オトノハコ』(講談社)

田辺きみは、新高校一年生。ある朝彼女は、すこしばかり、学校に早く着きすぎてしまった。下駄箱にたたずむ彼女の耳に、ふいにきれいに重なりあった歌声がながれこむ。ああ、合唱部の練習なんだな……ちょっとだけなら興味がある。でもわたしは、じぶんの声に…

河出文庫の『20世紀SF 1960年代・砂の檻』を買う。アンソロジー。愛着のある一冊だけれど、持っていなかった。冒頭から、4作目までの流れがいい。ゼラズニイ、エリスン、ディレイニーの勢いと才気。クラーク「メイルシュトレーム2」には、ショックを受けた…

中村明日美子『鶏肉倶楽部』(太田出版)

短編集。おもしろかった。華麗でスノビッシュな、倒錯行為のショウケース。どのはなしもさらりと読めてしまうけれど、工夫や趣向がこまやかにこらされている感じがした。楽しそうに描いているなー、というのが伝わってくるのがいいとおもう。『Jの総て』『…

アンリ・ボスコ『シルヴィウス』(新森書房)

こういうのが“好きな小説”。美的至福としかいいようがない。天上の音楽。本作は『マリクロワ』という作品の外伝として書かれたらしいけれど、訳者天沢退二郎の惚れこみゆえに、こちらが先に訳されてしまった。たとえば、泉鏡花の『春昼・春昼後刻』を偏愛す…

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ「召された乙女」(荒俣宏・編訳『英国ロマン派幻想集』国書刊行会)

作者はラファエル前派の画家としても知られるが、これはかなり物語要素のつよい詩。昇天したばかりの乙女は、地上に残してきた恋人のことを忘れられず、焦がれる思いを断ちきることができない。黄金(きん)に輝く天国の垣にもたれかかり、下界を見下ろす彼女…

決戦

大森望さんをはじめとする、海外SFの紹介者・翻訳者たち。そんなひとびとに、「師匠」と呼ばれ崇めたてまつられているのが水鏡子(すいきょうし)先生です。ちょっと変わったペンネームですが、女の子ではありません。「ちかごろは丸くなった」ともいわれる…

不時着カロン船のミスナビ

不時着カロン船のミスナビのトノヅカさんは、いまはミネラルのとりでを空と呼び捨てにというブログをやっている。トノヅカさんのテキストは、どう形容すればいいのかわからない。ちょっと変わった文章な気がする。よしあしではなく、すこし屈折しているよう…