こうしてひとり街道を歩いていると、横切ってゆく土地が――土地の物音や匂い、その息づかいや響きなどよりはるかに――土地そのものが、沁み込んでくる。ほかのどんな移動手段でもこんなことは起きない。九月の蜘蛛の巣にくるまるようにして風景にくるまって、何か風景の滋養分のようなものを、花粉を運ぶようにして運びながら、人は自分の身に取り入れてゆくのだ。
(ジュリアン・グラック『花文字2』、三ツ堀広一郎訳)