2024-01-01から1年間の記事一覧

高柳誠『都市の肖像』(書肆山田)

高柳誠。はじめに思潮社の〈詩・生成〉のシリーズで読んだ『高柳誠詩集』の、アナイス・ニン「技芸の冬(『人口の冬』)」の引用が強く記憶に焼きついている。愛すべきたたずまいのこの小さな本は、市庁舎、運河、天文台、競技場など名もないある都市の細部に…

2024年、3月。これまでもウクライナの人とは接する機会はあったのだけど、はじめてウクライナの青年を同僚に迎えて仕事をした。日本には7年住んでいる、と言っていて、その数字でウクライナ侵攻が始まる前に日本に来たのだとわかる。それからおよそ10日後、…

たった十八篇を収めただけの小さな詩集『孔雀船』は、大きな不幸と幸に縄のようにあざなわれてきた。 まず最初の不幸は、明治三九年(一九○六年)、はじめて世に送りだされたとき、その船出が題名のような華やかさには恵まれなかったことである。文語定型詩…

富士川 (略)だいたいラシュディを代表とするような小説というのが、どちらかというと魔術的リアリズムというんでしょうか、非常に強い物語性というものを中心に持っていて、そこにインドやイスラムの神話だとか伝説だとか、そういったものを結びつけていく。…

ジェレミーのいた空

ブラッドベリ編Timeless Stories for Today and Tomorrowで読んだ、ナイジェル・ニール“Jeremy in the Wind”。不可思議な淋しさと俳味がこころに永く残る、忘れがたい短篇です。いわゆる異色作家短篇系のアイデアストーリーとはどこかちがう味わいを感じまし…

三浦半島、2024春

横書き詩を集成した、奥付を含めなければわずかに99ページの『山本陽子全集』2巻(漉林書房)。自分の詩的人生において屹立するあの「遙るかする、するするながらⅢ」を収める。「遙るかする、するするながらⅢ」は2000年代なかごろからネット上で引用が拡散し、…

遙るかする純めみ、くるっく/くるっく/くるっくぱちり、とおとおみひらきとおり むく/ふくらみとおりながら、わおみひらきとおり、くらっ/らっく/らっく/くらっく とおり、かいてん/りらっく/りらっくりらっく ゆくゆく、とおりながら、あきすみの、…

Why they'd set the meetings up in Monfalcone he couldn't understand. True, it was closer to the site, and they'd put him in a charming hotel on the corniche -a long road virtually at the sea's edge, so gently curved it could almost be stra…

21世紀の残雪、のための

幻視の起爆力をそなえた唯一無二の作家、残雪。この短文では主にその評価の変容について、限られた知識しか持たない筆者なりに追ってみたい。 ・ふたつの世紀をまたいで 日本で『蒼老たる浮雲』の単行本が河出書房新社から刊行されたのは1989年。1980~90年…

アップダイクのエッセイ集More Matterより、アメリカ小説におけるユーモアの変遷について述べた文章(邦訳があるかは不明)。Secondly, the humor of Benchley and Thurber assumed a kind of generic American experience—white, Protestant, male, bourgeois…

マサチューセッツ工科大学出版局から2023年の10月に刊行されたJ・G・バラードの批評集、Selected Nonfiction, 1962-2007。Facebook上のグループ「J.G. Ballard」のDavid Pringleによる書き込みによると、およそ半数の文章は『千年王国ユーザーズガイド』と…

※記事の性格上、筆者が読んでいない本も(情けないハナシですが…)取り上げていますすぐれた選書とシックで上品な内装、すさまじい数のイベントで知られる台湾を代表する大型書店、誠品書店。この書店が毎月刊行している「書店誌」が「提案on the desk」だ。紙…

今、私は1933年に刊行された同人誌『文學(5号)』を開いている。たまたま立ち寄った鎌倉の古本屋で購入してきた。『詩と詩論』の後継誌として春山行夫が取りまとめた同誌には春山以外に安西冬衛、北園克衛、竹中郁、西脇順三郎、瀧口修三などの面々が詩やエ…