高柳誠『都市の肖像』(書肆山田)

高柳誠。はじめに思潮社の〈詩・生成〉のシリーズで読んだ『高柳誠詩集』の、アナイス・ニン「技芸の冬(『人口の冬』)」の引用が強く記憶に焼きついている。

愛すべきたたずまいのこの小さな本は、市庁舎、運河、天文台、競技場など名もないある都市の細部について、すべて見開き2ページで点描していく散文詩集。三つほど、書き出しだけ紹介したい。

動物園に集められている動物は、稀には絶滅寸前の種もいるが、ほとんどがすでに絶滅した種である。従ってその悉くが剝製や標本である。
「動物園」

書物は図書館の中にしか存在しない。と言うより、書物それ自体の原理からいって、図書館外では存在のしようもないのだ。

書物を読むには、よほど慎重にならなければならない。なぜなら、読むそばから文字は群れをなして飛び立ち、そのまま虚空に吸い込まれて消えてしまうからだ。従って、書物のほとんどは、その頁が空白になっている。
「図書館」

墓場は昼の間だけ市場になる。あるいは逆に、市場は夜の間だけ墓場になる。
「市場=墓場」