イタロ・カルヴィーノ「磁気嵐」(「新潮」1990年9月号)

レ・コスミコミケ』『柔かい月』を読みとおした感動から数年。この自在な小説空間のなかにふたたび入っていくよろこびを享受できるのは、一つの幸せである(Qfwfqお爺さん、また会えたね!)。ストーリーの紹介などはここでは控えさせていただこう。だって、こんな奔放なお話を、うまく要約できる自信がないのだ。しかしながら、このシリーズが好きなひとには、雑誌のバックナンバーを探し出してでも読んでみてほしいと心から思える傑作である。どんな制度にも束縛されない、ただ軽やかに飛翔する、読むことの官能それ自体のための小説。ああ、ラーかわいいよ、ラー。本篇、ユリイカに訳載された「月の娘たち」、および雑誌にさえ未訳の6篇をおさめた完全版《宇宙喜劇》が、いつかわが国でも刊行されることを望む。