短篇小説日和

・アーネスト・ブラマ「絵師キン・イェンの不幸な運命」(「ソムニウム」4号)
シノワズリ特集ということで綺麗な小説を期待して手にとったら呆然。なんだこの作品は。今まで読んだ国内海外中国キューバどんな国の小説とも似ていない。英語圏のフランク・オウエンやトマス・バークといった「「支那物語」に筆を染める異能の作家たち」、「そのなかにあっても独自の地位を占めている」と訳者も述べているけど、破壊的なまでに強固に組み上げられたスタイルで、形容することばが浮かびえない。

・ジョゼフィン・サクストン「障壁」(ジュディス・メリル編『年刊SF傑作選6』創元SF文庫)
サクストン。水鏡子の『乱れ殺法SF控え』巻末の作家ガイドにはしっかり項目が立っていて、「イギリスの女性作家。短篇が二つ訳されているだけだが、「いまだ“既視”ならず」も「障壁」も後に尾をひく作品だった」なんて記述がみられる。堅固な障壁によって北と南を隔てられている擂り鉢状の世界を舞台に、ある男と女の特異なかたちの恋を描く作品。読み出そうとしても押し返してくるような、物語序盤のすさまじい密度の風景描写にまず圧倒される。ニューウェーブ/ヌーヴォーロマン的な彼女の方法意識の高さを吟味すれば、本作は現代における男女のありかたを寓話のかたちで問おうとするものだと本気で信じることができると思うし、世にある「恋は障害がある方が燃える」ということばの普遍性(!)を文字通りの障害=障壁を登場させることで神話的に謳いあげる小傑作だと感じた。