コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」(『わが愛しき娘たちよ』ハヤカワ文庫SF)
controversialな作品だと聞いていたので読んでみたら(SFマガジンのポスト・フェミニズムSF特集に掲載)、たしかに傑作ではあるんだけど、どういう所に作品の思想的な側面があるのか、あるいはジェンダーSFとしてはどう把握すればいいのかということについてはうまく整理できずにいる。

少なくとも言えるのは、男女という二分法を前提とし、その制度に攻撃をかけるようなフェミニズムSFではないということ。登場人物たちの台詞の多さを加味すればけして多くはないページ数のなかに、レズビアニズムとか(疑似)獣姦とかセックストイとか、「父」や校長との倒錯した関係とか、多くの要素が氾濫している。幻惑的な書き出しでありながら、読み進めていくと信託子(トラスト・キッド)というシステムがどういうものか、雲が晴れるように少しずつ見えてくる構成にSFらしい趣きがある。

現時点で考えているのは、これは「女子寮を扱った小説」と聞いて人々が想起するイメージを華麗に裏切り続ける所に魅力があるのではないかということ。スラング、(日本風に言えば)ギャル、ドラッグ、男性や規則への不服従……スーザン・ソンタグは女性作家によるポルノグラフィを称揚していたと思うけど、良家の子女とはこうあるべきだという世間が抱く像、それを抜群のユーモアと速射砲的なリズムでもって反転させることにかなりの程度この作品は成功していると思う。

・キット・リード「ぶどうの木」(ハリイ・ハリスン、ブライアン・W・オールディス編『ベストSF1』サンリオSF文庫)
植物幻想の作品としてはかなりの秀作。ガラス製の温室の中で蠢く巨大なぶどうの木によって、ある町とそこに住む人々が狂っていくさまを描く。技巧に注目すると、描写すべき一番怖いシーンが筋書きふうに簡素に書かれていることが、かえって恐怖感を増大させる。そして、人間の内面における正常と異常が瞬間的に反転する場面が頻出するのもいい。ぶどうの木の存在で町が観光地として栄えていくとか、細部における寓意性が光る。