I was born.

たしか、語学学校に入学してまだ間もない頃のこと。授業で使う教科書(ESLの教材)はどのページにもディスカッションのための質問ばかりで、スピーキングそのものを日本ではかいもく勉強してこなかった僕には「はあはあぜえぜえ」の毎日だった。その日のクラスで取り扱った、教科書のある章のトビラページの質問は、「あなたにとって人生で最大のachievementは何ですか?」。アメリカ人の先生は、順に当てながら教室にいるすべての学生に答えを聞いていく。ラテンアメリカやヨーロッパから来たクラスメイトがつぎつぎになめらかに答えていく中、自分は答えを必死で考える。どうしよう、もうすぐやってきてしまう! 「How about you?」。なぜかその瞬間、天啓のようにひらめいたのは、高校の現代文の教科書にのっていた吉野弘の詩だった。深呼吸し、たった一言、大きな声で、「I was born.」。教室全体が大爆笑につつまれた。How humble...