洋書を所蔵する図書館でみつけて「こんな本あるのか!」と驚いたのが、三島由紀夫と Geoffrey Bownasという方が共編したNew writing in Japanというアンソロジー(1972、Penguin)。目次には、稲垣足穂高橋睦郎吉岡実塚本邦雄といった面々の名が(も)並ぶ。知人に話を伺うと、海外の編集者の依頼を受けて、三島がセレクトして交渉し最晩年に編集した本であるとのこと(ただ、Geoffrey Bownasの意見がどれだけ反映されているかはわからないとも)。

高橋睦郎はすでに多くの国で読まれているが、稲垣足穂吉岡実塚本邦雄らはどうだろうか。たとえば吉岡実の初の英訳書Lilac Gardenを手がけた佐藤紘彰は、『アメリカ翻訳武者修行』(丸善ライブラリー、1993)において「本は売れず、出版社が出版対象を変えたためもあって訳者に相談なくゾッキ本としてしまった」と書いているし、その後詩集『静かな家』の英訳も刊行されているようだが、Goodreadsを見る限り少なくとも一般読者にまともに読まれているようにはみえない。

海外に向けて稲垣足穂吉岡実塚本邦雄について紹介するときに、三島由紀夫の名を出す、ということもおそらくは「あり」なのではないだろうか。なお、三島は自分が採ったそれぞれの作家について、序文で簡潔に触れてもいる。