秀逸さの極致にまで達した小説があるとして、そういう小説について私が究極的に抱く考えは、以下のようなものだ。文字の印刷された各頁をくまどる自の余白が、環状の壁―― 一行一行読まれるごとに際限もなく引き延ばされてゆく各行のエコーを、作品の内容ぜんたいに跳ね返らせ反響させるような環状の壁と同じ役割を果たさなければならないだろう。

書物の名に値するような書物はみな、その機能をほんとうに果たしている場合には、閉域をつくっているのであって、その優れた力は、書物が放つありとあらゆるエネルギーを回収すること、変容させつつも再度みずからのうちに取りこむこと、みずからが送り出すあらゆる波動の跳ね返りを受けとめることにある。

(ジュリアン・グラック『花文字2』、三ツ堀広一郎訳)