マンディアルグの翻訳というと生田耕作澁澤龍彦のイメージが一般的には強いが、1950年代の前半から大濱甫 (シュオッブの翻訳家で礒崎純一氏の先生としても知られる)がすでに「三田文学」「文藝」などの雑誌に訳している。1953年の「三田文学」に訳された「クロリンダ」(おそらくこの作家の初邦訳)は昔図書館で現物を読んだのだけど、かなり短い作品だし、白水uブックスで読める作品と同一のものだったと記憶している。50年代の雑誌なので、もちろん紙は黒くてほろほろ。

ただ、たとえば皆川博子岸田今日子(ともに1930年生)であればひょっとしたらその頃からすでに読んでいたのだろうか、などとふと想ったりもする。その可能性の低さそのものは問題ではなくて、たのしむための気まぐれな空想として。岸田今日子の最後の短編集『二つの月の記憶』は薄くても深い余韻を残すとてもチャーミングな本だと個人的に思うけど、マンディアルグのとある本がかなり印象的な場面で登場するのだ。