安永知澄『ステップ・バイ・ステップ』(エンターブレイン、上下巻)

何らかのかたちで「階段が登場する」という一点だけを共通点にして紡がれてゆく連作短編集。

ためらいなく大傑作だと呼びたい、さけびたい。凡百のSF小説家を青褪めさせるような、真に圧倒的なイマジネーションの横溢。たしかな文明批評眼に裏打ちされた、異形の未来の提示。驚嘆すべきなのは、箍が外れたかのようなこれら狂気すれすれの綺想が〈目的〉としてではなく、わたしたちの時代における人間存在を探求するための誠実な〈手段〉として各エピソードの内側で作用していることだ。全人類がともに笑顔で手をつなぎ、階段を登りながらそのまま地球の外に飛び出してしまう表題作などはホントにすごい。

2009年刊の旧作ではあるけれど、普段マンガを手に取らない人にも読んでもらいたい素晴らしい一作だと思います。