Jock Sturges『Fanny』(Steidl)

ジョック・スタージスの現時点でのアメリカにおける最新作品集。表紙は白黒だが、多くのカラー写真を含む。Fannyという名のひとりのチャーミングな女性の、幼女からたくましく成長した大人に至るまでの永い時間を、フランスのMontalivetにて丹念に追っていく。自分の中のジョック・スタージス観を大胆に刷新してくれるに足る重量感のある傑作であり、とくに後半は物語が創造されてしまったかのような感動があった。

スタージス自身による序文も素晴らしく、辞書を引いてでも読む価値があると思う。児童ポルノ的玩物と誤解されてきたことも多いだろうスタージスの作品は、強固な哲学に裏打ちされていることがよくわかる。Fannyがほんとうに幼かった頃は、スタージス夫妻を見るや否やそちらの方に駆けてきて膝の上に乗ってしまおうとするから、写真を撮れるほどの距離をなかなか保つことができなかった。というエピソードはなぜかとても面白く感じられる。対象とレンズが近接し過ぎていては憧憬に形を与えることができないという命題は、詩人、スーザン・スチュアートのOn Longingと絡めていつかもっとじっくり考えてみたい。(2020)

Fanny