伊藤典夫編『ファンタジーへの誘い』には、エムシュウィラーの「順応性」、ラファティ「みにくい海」、セントクレア「街角の女神」からビーグル「死神よ来たれ」、ディック「この卑しい地上に」まで忘れがたい作品ばかりが収められている。エムシュウィラーもラファティも、小気味よく軽快な作品というよりは、読みおえてから時間が経ってもその面白さの正体を永く思考したくなってしまうような小説だ(少なくとも自分にとっては)。なんとも困ったことに、「この面白さはどこから来るのだろう?」と考えることが、日常の一部になってしまう。そんな無色のリボンはけっして解けることはないはずなのに。

ふとしたきっかけで訳者あとがきを再読して目を見開かされたのは、末尾の末尾で編者が「懐疑派のための選集」とはっきりと言明していること。これを目にした瞬間、現在の自分の嗜好の輪郭は遠い昔に手に入れたこの本にある程度与えられていたように思えてしまったのだ。そうすると、自分は編者のたくらみと術策に見事に嵌ってしまったことになる。優れたアンソロジーは、ときに罪深いほどの教育的効果を上げる。