三田文学」2019年秋号、「世界SFの透視図」。この特集における沼野充義+立原透耶+新島進識名章喜巽孝之による同タイトルの座談会、いま読んでも拡がりがあってとても面白い。スタニスワフ・レムの各国語版の比較なんて、英米の研究者だけではなかなか検討しきれないトピックだと思う。

伊藤計劃『ハーモニー』は日本社会独自の集団主義や雰囲気を「空気」という語に託して何度も用いているが、英語版ではすべて「空気」という語がカットされている、フランス語版も英訳を元にしているからそれを踏襲して訳していない、と新島進氏が指摘していてとても驚いた。これは、「そういうことは英語圏ではよくある」と一般化して済ませるような問題ではなく、作品の精妙なエッセンスにかかわる話ではないのだろうか。東アジアでは海外小説の翻訳が複数の翻訳家によってなされ結果として並存することがよくあるけど、「従来の伊藤計劃像を覆すまったく新しい翻訳」が欧米で出版される日は来るのだろうか。