大江健三郎『同時代ゲーム』(新潮文庫)

留学中、日本語の本も扱うシドニー紀伊国屋で買った唯一の文芸書。作家の〈抵抗のための悪文〉*を味わい尽くすため、10年かけて全ページを音読して読んだ。たいていは眠る前に読んだから、村=国家=小宇宙の住人の壊す人やアポ爺やペリ爺や木から降りん人や犬曳き屋は、夢という森のなかでの親密な友人になった。この10年、その前の10年よりも何らかの点で少しは勉強できたのだとすれば、ひとつはこの文庫本に励まされてのことだと思う。

*平岡篤頼による大江健三郎論から借用している。