「文藝」2020年冬号における日本文学翻訳家・編集者大アンケート、「世界に拡がる日本文学の行方」の竹森ジニーさんの回答より。

Q.あなたが日本文学に期待することは何ですか?

A.物語や登場人物、また時には革新的な書き方を通して、これまでとは異なる世界観を私に与えてくれるところが、日本文学の好きなところです。多くの西洋文学と比べて、断定的でなく、偏見がなく、善悪の間にはっきりとした線引きがなく、そして結末が開かれているところが非常に魅力的です。

同意/同意しないではなく、こういう着眼の仕方そのものに出会ったことがなくて虚を突かれた。小説が断定的でない、とはどういうことか?

エッセイや論説文であれば、「木を見て森を論じてしまうというような、過剰一般化に陥る欧米の書き手がいる、一方日本の知識人は結論を出すのにより慎重だ」という主張は(かならずしも同意できるかはともかく)ありうると思う。でも、小説は物語であってお話の「語り」から成り立っているわけだから、「Aというできごとが起きた、それからBというできごとが起きた」という風に断定しないとふつうは話が進まないのではないか。だから、このジニーさんの短文を目にして、自分は幸田露伴の「幻談」のような朦朧とした語り口とか、いわゆる「信頼できない語り手」のことすら頭をよぎった。たぶん、ジニーさんの言いたいことはそれとはまったく別のところにあるのだろうけど、この言葉はひどく面白く感じられる。