白山宣之『10月のプラネタリウム』(双葉社)

たった今ラストのページを読みおえ、頬を火照らせ、呼吸を整えながらこの文章をタイプしている。たとえようのないまばゆさを放射する、最高密度の作品集だ。

もともとこの作家を知ったのは、「漫画に関するWebページ「OHP」」の芝田隆広氏の実兄でもある本田健氏による読書感想サイト「本田健の植民地」。2000年代初頭では津野裕子に関してもっとも充実したwebページの一つとも呼ばれ、三五千波や椎名品夫といった異才を自分が知ったのもここを通してだった。(→Wayback Machineを通してのLink)

ぽん!と飛び出すやんちゃなおもちゃ箱。相互にはつながりのないそれぞれの作品に描かれているモチーフを少しだけ拾ってみよう。夜空に光る巨大な白鳥座、同級生の羨望をあつめる雄々しい貨物船模型、「月がいい」夜の影踏み、15世紀ポルトガル大航海時代の冒険王エンリケ、「ただ星を眺める」だけの仕事についていると同時代人からは評された天文学者、そして何より、生と死の境界面にたゆたう子どもたち…。

作者はこうした浪漫のきれぎれを力強い描線でもって誠実かつ精緻に描く。ガジェット志向、オブジェに対する感覚はきびしいまでに鋭く、時にかろやかな世界を表現しているようにみえても一篇一篇の幻想の重量は読者の未生の記憶に揺さぶりをかけてやまない。緩慢に浮遊し、また沈殿するノスタルジアの秘法。

コロナ禍という状況下にあって、「外にも出れないし家の積読本をこの際消化しよう」くらいの淡い気持ちで初めは手に取った。けれど結果として、ミルハウザー稲垣足穂と同じくらい稀少な存在になると期待をかけられる、かけがえのない少年性の夢の紡ぎ手に出会うことができた。(2020)