ここ7,8年くらいで話したポーランドの若者(あくまで個人的な推定では20代以下)のうち、詩人・シンボルスカの話題を振ってみて知らなかったひとはひとりもいない(といっても15人には満たないくらいの人数だけど)。ある時、「日本ではニンギョの翻訳が最近出たが、すごいことだ、あんなぶ厚い本、訳すのには何年もかかったはずだ」と熱を込めて返されて、僕のほうがなんのことだかわからなかったことがある。その青年は英語で話していたが、「ニンギョ」というコトバだけが日本語だった。それから数週間くらいたってからか、それが『人形』(未知谷)のことだとわかった。不勉強な自分はポーランドの大古典も読めていないわけだけど、「訳すのには何年もかかったはずだ」というその言葉の抑揚、そして本の厚みを表すために大きく拡げた指がつよく脳裏に焼き付いている。