2006~2009年ごろにかけて、「NEW ATLANTIS」というサイトを愛読していた。当時自分が運営していたブログのトップページから、二年ほどリンクを張っていたから忘れるはずがない。こうして夜中にサイトの名をタイプしてみると、プラネタリウムのような美麗なサイトデザインの記憶がまず無音であざやかに破裂する。鉱物や工作舎の刊行物、少年性の嗜好品。端正な文章で書かれた書物の紹介と、日常の記録。四方田犬彦『摩滅の賦』など、そこで興味をもっていつか読みたいと今も思っている本は一冊ではない。
ウェブサイトがその人のいい部分の詰まっている空間なのだとすれば、その書き手に関心がゆくことは自然であるはずだ。研究など日常の記録もそこにあり、記述から勝手に憶測するに自分と極端に歳の離れた方ではないと知覚され、ますます仰ぎ見てしまうのだった。
「NEW ATLANTIS」は美学だけでなく強さと理知の感じられるサイトでもあった。幻想文学の愛好家は、ときに過度なナイーブさを露わにしたり社会への意識が希薄だったりする場合もある。しかしある日、木地雅映子『氷の海のガレオン』について肯定的でない評価をしているごく短い記述を読んだときに、――当時の自分が幾度となく読み直していた作品であったにも関わらず――ああ、この人の物の見方に照らせばそう結論されうるのだろうなと、なぜか必然性を感じた記憶がある。あとづけの理屈かもしれないが、自分が惹かれていたのはフラジャイルなものへの志向に回収される部分ではなく、ではそれがなんであったか、というのは言語化するのはためらわれる。けれど確かなのは、「NEW ATLANTIS」はとても意志的で、闇夜の色なのにだから星座が映えるようにまぶしくて惚れ惚れしてしまう、つまり勇敢な少年のように「かっこいい」サイトだったということ。現在は単著もすでに刊行しているライターとして旺盛に活躍されているようで、とてもうれしい。