小林恭二『電話男』(ハルキ文庫)

面白かった。こういうスパッと読める文庫文で過ごす休日というのは、特別な出来事がなくても特別な一日になりうる。

以下、二つのレベルから簡潔なメモ程度に。まず個人的な思い出から語ると、この小説に初めて出会わせてくれたのは清水良典ほか編のアンソロジー『高校生のための小説入門』(筑摩書房)だった。抜粋だったにもかかわらずそこに展開されていたこころよい言語遊戯はスタッカートの音を響かせ、内なる幼児性を刺激してくれたものだった。

方法論の方にもう少し目を寄せると、これは技術的な水準のかなり高い小説であり、筒井康隆現代文学三条件としている「実験性・SF・笑い」がドンピシャにあてはまるなあと読みながら感じていた。良質の日本ポストモダン文学としてなぜか自分の胸の中では中井紀夫「山の上の交響楽」と同じグループにしまいこまれたのだけど、それ以上を言おうとすると個別の作品評を超えてしまうのでこの辺でやめておきます。

もうひとつだけ着目したいのは改行の仕方の非凡さ!この刻みかたとそれを成り立たせる文体の個性は、たとえばロジャー・ゼラズニイのそれと同じようにライトノベル作家を今からでも刺激しうると思うのですがベタな発想でしょうか。