『jem』創刊号についてのお知らせ

12/1の発売日に文学フリマ東京39頒布分、通販分ともに完売した『jem』創刊号ですが、このたびBOOTHにて少部数ですが通販(予約注文となります)を再開しました。一部の記事の版を組み直した関係で、申し訳ありませんが発送予定日は最短で2025年の1月8日頃となります。どうぞよろしくお願いいたします。

リンク
・BOOTHの『jem』創刊号商品ページ
・雑誌内容の詳細な紹介(公式note内)

2023~2024年の収穫

わずか一年の読書ではテーマが前景化しないので、2023~2024年というおよそ七百日に読んだ本の収穫。

それにしても、この頑迷な肉体!日に幾度となく自分の遅読ぶりに思いを馳せ、神を呪いたくなることもしばしばだ。でもそんなときは、詩人・批評家のSusan Stewartが自分の学生たちに向けて語ったことば、「詩の社会的な効用のひとつは読者の読む速度を遅らせることだ」ということばを思い起こして自分を慰めることにしている。

・★は別格で愛着があるもの
・新刊かそうでないかを問わず、該当する年に読んだもの
・刊行から4年以内のものは発行年も示す
・自分が編集した『jem』に収録されている作品や文章の類は外す(ただし再録は除く)


大江健三郎同時代ゲーム』(新潮文庫)★
ケイト・ウィルヘルム『杜松の時』(サンリオSF文庫)★
ジャン・ジュネ『判決』(みすず書房) ★
小松理虔『新復興論』(ゲンロン) ★
Pemi Aguda Ghostroots(Virago, 2024)★
キム・チョヨプ、キム・ウォニョン『サイボーグになる』(岩波書店、2022) ★
残雪『最後の恋人』(平凡社) ★ 
残雪『黄泥街』(白水uブックス)
Samantha Harvey Orbital (Grove Press, 2023)
Rebecca Solnit A Field Guide to Getting Lost(Penguin)※邦訳あり
Ursula K. Le Guin Steering the Craft(Eighth Mountain)※邦訳あり
Ursula K. Le Guin “A Left-Handed Commencement Address”(Ursula K. Le Guin公式サイト)
アリエット・ド・ボダール『茶匠と探偵』(竹書房)
アレン・カーズワイル『驚異の発明家の形見函』(創元推理文庫、上下巻)
尾崎翠『ちくま日本文学 尾崎翠』(筑摩書房)※一部再読
鈴木いづみ『ハートに火をつけて!』(文遊社)
岡田利規「掃除機」(『掃除機』白水社、2023) 
谷崎由依『鏡のなかのアジア』(集英社文庫)
円城塔『文字禍』(新潮文庫)
佐藤春夫「女誡扇綺譚」(『女誡扇綺譚 佐藤春夫台湾小説集』中公文庫ほか)
泉鏡花草迷宮』(岩波文庫)
泉鏡花「化鳥」(『日本幻想文学集成 泉鏡花 化鳥』国書刊行会)
坂永雄一「小さなはだしの足音」(『カモガワGブックスVol.5 特集:奇想とは何か?』2024)
アンリ・ミショー『魔法の国にて』(『アンリ・ミショー全集4』青土社) ★
アンナ・ゼーガース「死んだ少女たちの遠足」(『世界文学全集 94 ゼーガース/A.ツヴァイクブレヒト講談社) ★
ジーン・リース「あいつらにはジャズって呼ばせておけ」(『あの人たちが本を焼いた日』亜紀書房)
パウル・ツェラン「山中の対話」(『パウル・ツェラン詩文集』白水社) ※再読
タチヤーナ・トルスタヤ「夜」(沼野恭子訳『魔女たちの饗宴 現代ロシア女性作家選』新潮社)※再読
フリオ・コルタサル「クロノピオとファマ」(『クロノピオとファマその他の物語』)※未訳
Rosario Ferré “The Youngest Doll” in Ann and Jeff VanderMeer(ed.)The Big Book of Modern Fantasy(Vintage)
Ogawa Yukimi “Perfect” in The Dark Magazine 2014年5月号
ルーシャス・シェパード「竜のグリオールに絵を描いた男」(『竜のグリオールに絵を描いた男』竹書房文庫)
フランク・オウエン「世界を渡る風」(「世界を渡る風」(那智史郎・宮壁定雄編『ウィアード・テールズ1』国書刊行会)
フランク・オウエン「折れた柳」(「FANTAST」24号)
野村喜和夫「戦後散文詩アンソロジー」(「現代詩手帖」2024年7号)
崎原風子『崎原風子句集』(海程新社)★
堀田季何『人類の午後』(邑書林、2021) ★
大滝和子『銀河を産んだように』(『「銀河を産んだように」などI・II・III歌集』短歌研究社、2024)★
平出隆『家の緑閃光』(書肆山田)※再読★
山本陽子全集』第二巻 (漉林書房) ★
四元康祐『噤みの午後』(思潮社)
辻征夫『かぜのひきかた』(書肆山田)
ジャン=ミシェル・モルポワ『見えないものを集める蜜蜂』(思潮社) ★
ワート・ラウィー「詩とは反逆だ」(福冨渉note) 
アイリーン・ニクリャナーン 「捕獲」(「英文学評論」2023年5月号)
リンゲルナッツ「全生涯」(安野光雅森毅井上ひさし池内紀編『ちくま文学の森9 賭けと人生』筑摩書房)
ユリイカ 特集:現代語の世界」(2022) 
阿部大樹『翻訳目録』(雷鳥社
阿部大樹『Forget it not』(作品社、2022)
栗田路子ほか『夫婦別姓』(ちくま新書、2021)
阿良田麻里子『世界の食文化 インドネシア』(農山漁村文化協会)
ニール・カミンズ『もしも月がなかったら』(東京書籍)
イ・ソンチャン『オマエラ、軍隊シッテルカ!?』(バジリコ)
金田理恵『ぜんまい屋の葉書』(筑摩書房
山田参助あれよ星屑』(1)~(7)(エンターブレイン) ★
伊藤重夫『ダイヤモンド・因数猫分解』(アイスクリームガーデン)
A ee mi『Platonic Love』(Paradice System、2023)
プラトン「アンドロギュノスについて」(『書物の王国 両性具有』国書刊行会)
和田忠彦×四元康祐「詩、小説、翻訳の向こう側」(「現代詩手帖」2019年10月号) ★
和田忠彦×四元康祐「シベリア経由、ヨーロッパ⇄東京」(「現代詩手帖」2020年2月号) ★
沼野充義「ルジェヴィッチ、あるいは生き残りの論理」(『世界文学論』作品社)
Binyavanga Wainaina“How to Write About Africa”(「Granta」)
橋本輝幸「私たちの相違と共鳴」(「文藝」2021年春季号)
伴名練「戦後初期日本SF・女性小説家たちの足跡 第九回 稀代の幻想小説家とSF界をめぐって――山尾悠子(「SFマガジン」2023年10月号)
劉佳寧「魔窟訪問記」
内沼晋太郎、綾女欣伸編著『本の未来を探す旅 ソウル』(朝日出版社)
千葉文夫「パリのキューバ人 アレッホ・カルペンチェール」(『ファントマ幻想』青土社)
尹相仁+朴利鎮+韓程善+姜宇源庸+李漢正『韓国における日本文学翻訳の64年』(出版ニュース社) ★
クリス・ローウィー+今野真二「日本語表記のアーキテクチャ」(「未草」2023~2024年) ★
井上ひさし「振仮名損得勘定」(『私家版日本語文法』新潮文庫)
松浦寿輝「点の滴り」(『松浦寿輝詩集』〈現代詩文庫〉思潮社)
パトリック・オノレ「新たなるパラディグム」(『定本夢野久作全集』月報、国書刊行会)※再読★
パウ・ピタルク・フェルナンデス「スペインにおける日本文学の翻訳事情」(『多元文化』7号、早稲田大学多元文化学会)
ジェフリー・アングルス「詩史と同性愛の削除」(「現代詩手帖」2012年11月号)
梅木英治『最後の楽園』(国書刊行会)

・補遺 リファレンス性の強い書籍含め、通読はしていないが現在進行形で影響を受けているもの
the Times Literary Supplement Podcast
John Updike Odd Jobs(Random House)
John Updike More matter(Random House)
皆川博子皆川博子随筆精華』1~3(河出書房新社)
山尾悠子『迷宮遊覧飛行』(国書刊行会、2023)
大名力『英語の綴りのルール』(研究社、2021)
大名力『英語の文字・綴り・発音のしくみ』(研究社)
海老島均、山下理恵子編著『アイルランドを知るための70章【第3版】』(明石書店)
伊藤亜人、大村益夫、高崎宗司、武田幸男、吉田光男ほか監修『韓国朝鮮を知る事典』(平凡社)

・映画
「祈り」(テンギス・アブラゼ監督)
「奇跡」(カール・ドライヤー監督) 
「吸血鬼」(カール・ドライヤー監督) 
アンダーグラウンド」(エミール・クストリッツァ監督) 
「はちどり」(キム・ボラ監督)
ひなぎく」(ヴェラ・ヒティロヴァ監督)

NEW ATLANTIS

2006~2009年ごろにかけて、「NEW ATLANTIS」というサイトを愛読していた。当時自分が運営していたブログのトップページから、二年ほどリンクを張っていたから忘れるはずがない。こうして夜中にサイトの名をタイプしてみると、プラネタリウムのような美麗なサイトデザインの記憶がまず無音であざやかに破裂する。鉱物や工作舎の刊行物、少年性の嗜好品。端正な文章で書かれた書物の紹介と、日常の記録。四方田犬彦『摩滅の賦』など、そこで興味をもっていつか読みたいと今も思っている本は一冊ではない。

ウェブサイトがその人のいい部分の詰まっている空間なのだとすれば、その書き手に関心がゆくことは自然であるはずだ。研究など日常の記録もそこにあり、記述から勝手に憶測するに自分と極端に歳の離れた方ではないと知覚され、ますます仰ぎ見てしまうのだった。

「NEW ATLANTIS」は美学だけでなく強さと理知の感じられるサイトでもあった。幻想文学の愛好家は、ときに過度なナイーブさを露わにしたり社会への意識が希薄だったりする場合もある。しかしある日、木地雅映子『氷の海のガレオン』について肯定的でない評価をしているごく短い記述を読んだときに、――当時の自分が幾度となく読み直していた作品であったにも関わらず――ああ、この人の物の見方に照らせばそう結論されうるのだろうなと、なぜか必然性を感じた記憶がある。あとづけの理屈かもしれないが、自分が惹かれていたのはフラジャイルなものへの志向に回収される部分ではなく、ではそれがなんであったか、というのは言語化するのはためらわれる。けれど確かなのは、「NEW ATLANTIS」はとても意志的で、闇夜の色なのにだから星座が映えるようにまぶしくて惚れ惚れしてしまう、つまり勇敢な少年のように「かっこいい」サイトだったということ。現在は単著もすでに刊行しているライターとして旺盛に活躍されているようで、とてもうれしい。

文学フリマで期待とともに購入した『カモガワGブックスVol.5 特集:奇想とは何か?』を面白く読んでいる。

坂永雄一「小さなはだしの足音」は足跡発人類史経由銀河行きという骨太の思索的サイエンスフィクション。後半に至り、虚構内の仮説を誰もが知る童話に接続させてしまう手つきが凄い。ところで、同氏の「奇想的宇宙SFの世界」冒頭でビショップ「宇宙飛行士とジプシー」が取り上げられていて、小さなはだしの足音よりもずっと小さな声を上げてしまった。この作品はいまだ「SFマガジン」1975年5月号に訳出されたきり書籍に収録されていないが、今まで読んだ限りの浅倉久志の翻訳作では僕にとって文字通り最も愛着のある作品なのである。普通に考えれば本作を「宇宙SF」として紹介するのはいささか無理があるのだが、おそらく書き手はそれを承知で掬いとりたかったのだろう。

この号には「jem」創刊号にも異様な熱を帯びた原稿の礫を寄せてもらった大島豊さんが参加しているが、もともとはこれもビショップのおかげ。僕が大島さんの名を強烈に意識しやがてこちらからコンタクトを取り、ついに知遇を得ることになったのは「宇宙飛行士とジプシー」でネット検索して出てきた浅倉久志をめぐる記事にどうしようもなく強く惹かれたからである。安田均がかつて明敏にも指摘したように、ビショップはやはり共感回路を人と人のあいだに生成してしまう作家なのではないか。

おや、雑誌の熱について語るはずが、きょうは感傷的な追想にひたってしまって一回休み。続きはまた、いつかの夜に。

11月23日のThe Guardianに掲載されたイギリスでの日本文学受容についての記事。読んでいてある種の居心地の悪さを感じますが、2022年、イギリスの翻訳小説の売り上げの25%は日本語の作品という点は知りませんでした。

個人的に注目したいのは、日本文学ファンサイトでも呼ぶべきRead Japanese Literatureを運営するAlison Fincherさんが識者としてコメントを寄せていることです(Alison Fincherさんが最近ある場所に投稿していた文章は、The Guardianのような媒体に登場するのは今回が初めてであることを示唆しています)。すでに英語圏の翻訳家にはよく読まれているサイトで、英語圏の出版社の日本文学の近刊情報、そして(もちろん合法的に)ウェブサイトに公開されていて無料で読める日本小説のリストをまとめてくれているのでたいへん有用です(わたしも重宝しています)。他方、Podcastを数回分聞いた限りでは、かなり危うい内容に個人的に思えます。テーマ別に「文学史」的な視点で作品を語っているのですが、限られた数の既訳作をベースに「これは(おそらく)この時代ではもっとも〇〇な作品」といったassertiveな言及を重ねるのは過剰一般化のように感じられます。

いきなり発表!奇想短篇小説マイフェイバリット

空舟千帆さん、および「jem」創刊号のアンケート企画にも寄稿くださった鯨井久志さんの「カモガワGブックス」Vol.5「特集:奇想とは何か?」への期待からなんとなく作ってみました。

・入手の困難さなどは度外視して好みを打ち出しました
・連作長篇中の一篇も入れてしまいました
・お遊び企画です!瞬間的に思いついた作品だけですのであしからず。

オクタビオ・パス「波と暮らして」
カルペンティエール「選ばれた人びと」
バルガス・リョサ「子犬たち」
フリオ・コルタサル「クロノピオとファマの物語」(未訳)
アウグスト・モンテロッソ「ミスター・テイラー」
フェルナンド・ソレンティーノ「傘で私の頭を叩くのが習慣の男がいる」
ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナ「乳房島」
デヴィッド・ブルックス“Map Room”(未訳)
イタロ・カルヴィーノ「王が聴く」(未訳)
ヴォルテール「ミクロメガス」
シャルル・フーリエ「アルシブラ」
レーモン・ルーセル「黒人たちの間で」
アンリ・ミショー「魔法の国にて」
ジョルジュ・ペレック「冬の旅」
シオドア・スタージョン「考え方」
フリッツ・ライバー「ラン・チチ・チチ・タン」
デーモン・ナイト「人類供応のしおり」
キット・リード「ぶどうの木」
エムシュウィラー「ピアリ」(らっぱ亭訳)
ジョゼフィン・サクストン「障壁」
ジョージ・コリン「マーティン・ボーグの奇妙な生涯」
アルヴィン・グリーンバーグホルヘ・ルイス・ボルヘスによる「フランツ・カフカ」」
R・A・ラファティ「町かどの穴」
イアン・ワトスン「スロー・バード」
バリントン・ベイリー「知識の蜜蜂」
コニー・ウィリス「わが愛しき娘たちよ」
チャイナ・ミエヴィル「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」
Ogawa Yukimi “Perfect” (未訳)
イン・イーシェン「世界の妻」
ジュリアン・バーンズ「密航者たち」
フラン・オブライエン「機関車になった男」
キアラン・カーソン「対蹠地」
エリック・マコーマック「刈り跡」
アーネスト・ブラマ「絵師キン・イェンの不幸な運命」
ディーノ・ブッツァーティ「七人の使者」
ジョルジュ・マンガネッリ「虚偽の王国」
ジョヴァンニ・パピーニ「泉水のなかの二つの顔」
パウル・シェーアバルトセルバンテス
イルゼ・アイヒンガー「わたしの緑色の驢馬」
フランツ・カフカ万里の長城
レオ・ペルッツ「月は笑う」
オスカル・パニッツア「三位一体亭」
ルフレート・デーブリーン「たんぽぽ殺し」
クリスティン・ブルック=ローズ「関係」
ロバート・クーヴァー「ラッキー・ピエール」
ドナルド・バーセルミ「バルーン」
ジョン・バース「アンブローズそのしるし」
スティーヴン・ミルハウザー「アリスは、落ちながら」
ヴィクトル・ペレーヴィン「倉庫XII番の冒険と生涯」
ウラジミール・ソローキン「愛」
スワヴォーミル・ムロージェク「所長」
スタニスワフ・レム「我は僕ならずや」
サーテグ・ヘダーヤト「幕屋の人形」
三橋一夫「腹話術師」
渡辺温「兵隊の死」
黒井千次「冷たい仕事」
正岡蓉「ルナパークの盗賊」
山本修雄「ウコンレオラ」
藤枝静男「田紳有楽」
中井紀夫「山の上の交響楽」
皆川博子「結ぶ」
山尾悠子「透明族に関するエスキス」
筒井康隆「上下左右」
円城塔「誤字」

辻真先『アリスの国の殺人』簡体字版の翻訳を少しだけお手伝いしました

辻真先『アリスの国の殺人』の簡体字版、《爱丽丝梦境事件》(木海訳、浙江文艺出版社、2025年1月刊)翻訳のお手伝いをほんの少しだけいたしました。訳文はいっさい作っておらず、単純に日本語母語話者の視点からの助言です。木海さんが訳者あとがきに私の名前を入れてくださっています!多くの読者の手に渡りますように。

 

 

中国の幻想文学研究者・翻訳家の劉佳寧さんによる「魔窟探訪記」

当誌『jem』創刊号では中国の幻想文学研究者・翻訳家の劉佳寧さんにインタビューを行いました。その末尾でも話題のある、web連載「魔窟探訪記(魔窟探访记)」。幻想文学に関係する方々の書斎、蔵書に取材する企画です。第1回は後藤護さん第2回は山尾悠子さん第3回は礒崎純一さんのもとを訪問(緑色の「阅读全文」を押せば全体が見られます)。

山尾悠子さんはかつて工作舎の雑誌「遊」に「今月私が買った本」という連載を寄せていましたが、「不世出の作家」とも言われたことのある山尾さんの御自宅まで実訪して写真に収め、このような驚異の記事を著してしまったのは劉佳寧さんが初でしょう。澁澤蔵書目録である『書物の宇宙誌』という本は刊行されていても、(それが完全なものでなくても)山尾さんの蔵書を記録するという発想はこれまでなかったはずです。一冊一冊大切に買い集めてきたに違いない、美麗な書物の数々に目を奪われます。

1970年代刊行の本などでも保存状態が良い本が多いのに驚かされます。山尾さんが2015年に書いたあるエセーで、森開社版のシュオッブ『少年十字軍』(1978年刊)について、「これはもちろん大事にして、白く美しく手元にある」と書いていますが、この言葉について誰よりも嬉しそうに言及していたのは他ならぬ森開社社主の小野夕馥さんでした(森開社ブログ参照)。

なお、上から数えて3~7枚目までの写真は、山尾さんの蔵書ではなく、倉敷にある古本屋・蟲文庫さんの店内の写真ですのでご注意ください。誤った推測などがSNS、インターネットを通じて流布すると迷惑がかかる場合もあると考え、勝手ながら記します。後藤護さん、礒崎純一さんの回もとても興味深いのですが、そうした話はまたいずれ。

 

 

【朗報】『jem』創刊号で書評を掲載したSamantha Harveyの長篇Orbitalブッカー賞を受賞しました!(なんと入稿から10時間後に発表)。英語圏ではすでに多くの書評が出ていますが、関心のある方にはTimes Literary Supplementの、著者自身が出演した2023年11月の回のpodcastが強くおすすめです。

www.the-tls.co.uk

『jem』創刊号を刊行します

来たる12/1(日)、『jem』の創刊号を刊行します。今回の特集は「未来視する女性作家たち」、また小特集として「東方幻想の世界」。文学フリマ東京39(2024年12月1日開催)で初頒布、また、今後BOOTHでの通販を予定しています。詳細および目次は公式noteの記事をご覧ください。どうぞよろしくお願いいたします。

note.com

大阪にある海外コミックスのブックカフェ、書肆喫茶moriさんが刊行されている海外マンガ情報誌『漫海』Vol.4(編集は書肆喫茶moriさん&げそにんちゃんさん)に書評を寄稿しました。台湾のアーティスト、A ee miのジェンダーSF『Platonic Love』(Paradice System、2023※繁体字からの英訳)について、鈴木賢『台湾同性婚法の誕生 アジアLGBTQ+燈台への歴程』(日本評論社)などと絡めた文章を寄稿しています。『Platonic Love』英語版はブックギャラリーポポタムさんの通販などで購入できます。いまこの時代に、多くの人に読まれてほしい秀作です。

SFマガジンオールタイムベストアンケート、投票してみました。いわゆるオールタイムベストを択ぶとはどのような営みなのか、以前考えて書いた比較的長いエッセイがありますので、興味をお持ちの方はここから(→LINK)ご覧ください。

海外長編
1.ケイト・ウィルヘルム『杜松の時』
2.スタニスワフ・レム「完全な真空」
3.マイクル・ビショップ『時の他に敵なし』
4.アンナ・カヴァン『氷』
5.ロバート・シルヴァーバーグ『夜の翼』

国内長編
1.時里二郎『名井島』
2.大江健三郎同時代ゲーム
3.山尾悠子『飛ぶ孔雀』
4.筒井康隆『美藝公』
5.山野浩一『花と機械とゲシタルト』

海外短編
1.マイクル・ビショップ「宇宙飛行士とジプシー」
2.ジョン・ヴァーリイ「残像」
3.ジェフ・ライマン「オムニセクシュアル」
4.フリッツ・ライバー「ラン・チチ・チチ・タン」
5.ジョン・クロウリー「消えた」

国内短編
1.荒巻義雄「性炎樹の花咲くとき」
2.中井紀夫「山の上の交響楽」
3.小川一水「漂った男」
4.村田沙耶香「トリプル」
5.山本修雄「ウコンレオラ」

海外作家(順位なし)
テッド・チャン
〇J・G・バラード
〇サミュエル・ディレイニー
シオドア・スタージョン
〇サマンサ・ハーヴェイ

国内作家(順位なし)
筒井康隆
秋山瑞人
伊藤計劃
〇大滝和子
三五千波

「文藝」の最新号で知ったジョージア映画祭、アレクサンドレ・レフヴィアシヴィリ監督「19世紀ジョージアの記録」。「深い森を舞台に謎めいた陰謀が描かれる。モノクロームの夢幻的ともいえる詩的で象徴的な映像、迷宮のような世界に政治体制への思いが込められた伝説的作品。権力による暴力が超現実的な虚構空間で寓意的に表現され、時代を超えた内容である。」映画祭の公式サイトによる紹介文に惹かれてこの作品を選んだけど、独自の美学の感じられる印象的な作品だった。

エンドロールの幕が上がったあと、この映画祭の企画を務めている方が「60分の映画でお金を取ったら悪いから」と言って、作品とジョージアの現代史との関係をマイク片手にアドリブでレクチャーしてくれたのに熱意を感じた。帰宅してすぐ、(ほとんどジョージア文化を知るためだけに以前レッスンを受けていた)オンライン英会話のジョージアの先生にきょうのことを送った。こうした親密さもあるのだ。